2060年-将来のマイクロプラスチックが4倍、危険レベルに達する理由

海に浮かぶプラごみ

九州大学の磯辺篤彦教授を中心としたチームが、海に漂うマイクロプラスチック量が40-50年先の2066年までにどこまで増えるかシミュレーションを行いました(Isobe et al. 2019)。Nature Communications誌に掲載されたこの論文では4つの重要な発見を述べています。

(1)マイクロプラスチックは南よりも北の海で桁違いに多い

(2)海に浮かぶマイクロプラスチックが滞留する時間はせいぜい数年

(3)マイクロプラスチック濃度は2030年にいまの2倍、2060年にいまの4倍に

(4)2060年のマイクロプラスチック濃度は生物に害をもたらす危険レベルに

それぞれ詳しく見ていきましょう。

世界中から海に漏れ出す管理されてないプラスチックごみ

プラスチックごみは、分別・収集・埋め立て・焼却といった廃棄物管理がきちんとなされていないと、環境中に漏れ出し、やがて海に流入します。

特に人口の多い発展途上の地域から多くのプラごみが漏れ出しています。実際、世界中に海に流入するプラスチックごみの半分(52%)が東アジアと東南アジアから漏れ出しています。

そのためプラスチック量は南半球よりも北半球の海で多いことが予想されていました。

これを証明するために、東京海洋大学の調査船「海鷹丸」に乗り込んだ研究チームは、南極海から日本まで、つまり南から北までマイクロプラスチックの横断調査を実施しました。

北の海で桁違いに多いマイクロプラスチック

南極海から日本までの横断調査の結果、北半球のマイクロプラスチック数は南半球よりも1桁多いことがわかりました。さらに日本近海のマイクロプラスチック数は南半球よりも2桁も多いことが判明。

プラスチックごみの排出量の多い北半球でやはりマイクロプラスチックが多かったことが証明されたわけです。 この傾向は南半球で別の研究者によって行われた結果とも一致していました。

つまり別の研究者から報告された南半球のマイクロプラスチック数は北半球よりも1桁小さかったわけです。 さらに過去の調査で日本近海はマイクロプラスチックのホットスポット(たまり場)であることことが分かっていましたが(Isobe et al. 2015)、今回の結果もそれを裏付けるものとなりました。

北半球のほうがマイクロプラスチックが多いと言うことは、つまり私たちの住んでいる周辺の海域のほうが汚染が進んでいると言うことです。

九州大学・磯部教授|マイクロプラスチック|問題・影響・原因|海洋汚染|

マイクロプラスチック数の南北差。縦軸はマイクロプラスチック数(立方メートルあたりの個数)。横軸は南北の緯度を示し、右に向かって南極海から日本近海までを示す。南から北に向かって数が桁違いに増えているのが分かる。Source: Isobe et al. 2019 Abundance of non-conservative microplastics in the upper ocean from 1957 to 2066 (CC BY 4.0)

北半球で排出され海に流入するプラスチックごみのほとんど半分は中国と東南アジアから来ています。単純に考えれば、中国の海のほうが、日本近海の海よりもマイクロプラスチックがたくさんあると考えるべきでしょう。

しかし、中国の研究者が報告している中国沖合に浮遊するマイクロプラスチック数よりも、日本の沖合に浮遊するマイクロプラスチック数のほうが多いのです。マイクロプラスチックは確実にどこかで消失しています。

そう表面から消えていくんです。

海の表面から消失するプラスチック

磯辺教授のチームは、マイクロプラスチック量の南北差、つまり北半球で1桁多いという結果を説明するモデルを構築しました。毎年800万トンのプラごみが海に流入することを示した米国研究者ジャムベックさんのデータがモデルの検証に使われました(Jambeck et al. 2015)。

ジャムベックさんの示した各国からのプラごみ投棄量をもとに、太平洋を囲む各大陸の代表地点から投棄されるプラごみ(マイクロプラスチック)が海の表層を通過する時間をシミュレーション。 するとマイクロプラスチックの消失時間が見えてきました。

ここでいう消失とは、マイクロプラスチックが物質としてなくなるということではなく、海の表層から消えるという意味です。海の表面に浮かぶ軽いプラスチックは永遠に浮いていることはありません。

いつかは沈みます。 マイクロプラスチックの表面に付着生物が付いて重くなり沈むこともあれば、マイクロプラスチックが動物プランクトンや魚に食べられて糞と一緒に沈むこともあります。さらに植物プランクトンの粘液に絡まってマリンスノーとして深い海へと沈降していきます。

海に浮かぶプラごみ

表層に留まる時間は3年〜数年くらい

もともと軽いプラスチックが沈むとは考えられてはおらず、そのため海に流入した軽いプラスチックはずっと海の表面のどこかに蓄積していくと考えられていました。

もしそうなら、海の表層に浮かぶプラスチックは少なく見積もっても4500万トンは浮いているはずと推定されています。

しかし実際に調べてみると海に浮いているプラスチック量はたかだが44万トンしかなく、予想の1%しかありませんでした。残りの99%がどこにいったのか行方不明なのです(英語でthe missing plasticsといいます)。

軽いプラスチックはいつかは沈む。しかし、どのくらいの時間スケールで消失する(沈む)のか不明でした。1年より短いのか?、10年より長いのか? 先行研究では、海表面のプラスチックは3年以内に消失することがオランダ・アメリカ・イギリスの研究チームからモデルで示されています(Koelmans et al. 2017)。

そして今回の研究でわかったことは、流入したマイクロプラスチックが1年で消失したら現状のマイクロプラスチック量は説明できないし、10年だと長すぎるということでした。 10年ならもっとたくさんのマイクロプラスチックが海の表面にあるはずだけどそんなにない。

それで3年で見積もると、過去から現在にかけて報告されているマイクロプラスチック量とちょうど合致する。 こうして、マイクロプラスチックが海の表層を浮遊して滞在している時間は3年から数年だろうということがはっきりしてきたのです。

濃度は2060年にいまの4倍に

地球温暖化の場合、100年後の気温がいまよりどれくらい上昇しているのか簡単にシミュレーションできます。 大気中の二酸化炭素の濃度を推定すればわかりますし、そこから海がどのくらい酸性化していくかも推定することができます。

しかし、マイクロプラスチックの場合、複雑な海流と消失過程のために海の表層に存在する量を予測することは困難でした。 磯辺教授らチームはジャムベックのデータをモデルに組み込んで将来を予測。

現状維持でプラスチックを排出し続ける「なりゆきシナリオ」では、海に浮かぶマイクロプラスチック濃度が2030年に今の2倍、2060年には今の4倍になることが太平洋のゴミ収束帯で起こりえることを示しました。

九州大学・磯部教授の論文によるプラごみが溜まる海域

2066年の夏(8月)におけるマイクロプラスチック濃度のモデル結果。日本近海や北太平洋の中心部で特に濃度が高い。Source: Isobe et al. 2019 Abundance of non-conservative microplastics in the upper ocean from 1957 to 2066 (CC BY 4.0)

マイクロプラスチックは広い海の表層に均一に散らばっているわけではありません。むしろ海流が収束する場所に溜まりパッチ状に分布しています(上図)。

またマイクロプラスチックの分布は海流の経年変動や季節の影響によって変わります。たとえば、海表面のマイクロプラスチック濃度は、夏に風の影響をうけて日本近海で高くなり、冬には(混合層が深くまで潜るので)濃度は薄くなります。

日本近海のマイクロプラスチック量が現時点では問題なくとも、将来的に問題を引き起こす濃度になり得るとしたら、まず夏にその問題が起きると予想されます。

2060年、夏の日本近海と北太平洋中心部のマイクロプラスチック濃度はおよそ1,000 mg/m3のオーダーになるだろうと予測されています。

生物影響を調べるときの問題点

マイクロプラスチックが注目されて以来、世界の研究者たちはこぞってマイクロプラスチックが生物に与える影響を調べてきました。

魚、甲殻類、貝類、ヒトデなどの棘皮動物類にどんな害をもたらすのか、様々な研究が行われています。 しかし、2つ大きな問題があります。1つは、実験動物に自然環境ではありえない濃度のマイクロプラスチックを投与していること。

もう一つが、自然環境ではまだ見つかっていないくらい”小さな”マイクロプラスチック(またはナノプラスチック)を使って実験している研究が多くあることです。

地球温暖化と違い、研究者も50年後や100年後のマイクロプラスチック量がわからないために、当てずっぽうで高濃度のマイクロプラスチックを実験動物に与えて研究していた訳です。中には濃度が1万〜100万mg/m3の超高濃度で実験している例もあります。

今回のモデル研究によって、少なくとも今世紀中には海表面のマイクロプラスチック濃度は1万mg/m3には達しないことが示されました。 これは生物影響を調べる研究者にとっては非常にありがたい重要な成果です。これによってプラスチックの排出規制にあわせた、より現実的な実験の計画を立てやすくなるからです。

マイクロプラスチック

2060年に危険レベルに達する理由

さて、2060年にマイクロプラスチック濃度が1,000 mg/m3に達することが示されたわけですが、これは生物にとって害のある濃度なのか?そこが注目されます。

マイクロプラスチックが生物に与える影響を報告している過去の研究を精査していくと、マイクロプラスチック濃度がだいたい1,000 〜10,000 mg/m3あたりから甲殻類や魚類などに悪影響を及ぼすことが指摘されています。 よって重量(mg/m3 )の観点から言えば、2060年のマイクロプラスチック濃度(1,000 mg/m3)は生物に害を及ぼすレベルになるわけです。

ただし注意しないといけないことは、モデルで示されたマイクロプラスチックは大きさが数百マイクロメートル(µm)から数ミリなのに対して、多くの生物影響評価はそれよりも小さな数マイクロメートルからナノメートルのプラスチック粒子を使って実験していることです。

それでも大きさが数百マイクロメートルから数ミリのマイクロプラスチックも微細化して、数マイクロからナノスケールにまで細かくなることは実験で示されています(Dawson et al. 2018)。ですから将来的に(40-50年後に)海のプラスチックが本当の脅威となる可能性は十分にあります。

2060年ー将来のマイクロプラスチック濃度が生物に害を及ぼす危険レベルに達する可能性が見えてきました。温室効果ガスの排出と同じく、このままの「なりゆきシナリオ」では相当にまずいことになることが予想されます。そう、私たちの生きている間に。