プラスチックの添加剤が海の生態系を脅かす

海に浮かぶ様々なプラスチックごみ

プラスチックは高分子であり、生物の細胞膜を通過しない、また細胞膜と反応することもない、生物化学的に不活性な物質であると考えられていました。

しかしそれは「純粋な」プラスチックに限った話しです。

私たちが手にするほとんどのすべてのプラスチック製品は、純粋なプラスチックではありません。

プラスチック製品には、望みの性質をあたえるためにさまざまな化学物質が加えられます(Lithner et al. 2011)。

着色剤や、火災予防のための難燃剤や軟化させるための可塑剤、紫外線吸収剤といった様々な化学物質のことです。

このようにプラスチックを製造・加工するときに添加される化学物質を「添加剤」と呼びます(Andrady 2016)。

プラスチックから溶出する添加剤

浜辺に散乱するプラスチックごみ

私たちの身近なプラスチックには様々な添加剤が使われています。

たとえば、ポリプロピレンは酸化しやすいため、大量の酸化防止剤と紫外線吸収剤が加えられます(Zweifel 2001)。

塩ビパイプや合成革などに使われるポリ塩化ビニル(PVC)は、最も添加剤を多く含むプラスチックのひとつで、ポリマーを安定にするために熱安定剤が加えられ、また変形させるために大量の可塑剤が加えられます(Lithner et al. 2011)。

このPVCでは、加えられた添加剤の量が製品重量の10-50%を占めることも珍しくありませんし(Oehlmann et al. 2009)、ときには最終製品の重量の80%を占める場合もあります(Buchta et al. 2005)。

ほとんどの添加剤は分子量が低いため、高分子(ポリマー)であるプラスチックとは化学的に結合していません。そのため、添加剤はプラスチックから滲み出てきます(Tickner 1999, Crompton 2007)。

例えて言うなら、スパゲッティとトマトソースの関係です。

プラスチックがスパゲッティで、添加剤がトマトソースです。スパゲッティだけ(純粋なプラスチック)ではお客さんに出せませんが、トマトソース(添加剤)を加えることで商品になります。

両者は絡み合っていますが、結合していないため、洗うとソースは流れていきます。

同じ理屈で、プラスチック製品からも添加剤が滲み出てきます。

人体・生物に毒性のある添加剤

海面に浮かぶ大量のプラスチックごみ

これらの添加剤には、その分解産物もあわせて人体に有害な物質が多く含まれています(Rochman 2015)。

ポリカーボネートの原料となるビスフェノールA(BPA)や可塑剤として使われるフタル酸系の添加剤は、低濃度でも発がん性や生殖機能を損なわせる内分泌攪乱作用があります(Crain et al. 2007, Oehlmann et al. 2009, Halden et al. 2010, Meeker et al. 2009, vom Saal et al. 2007, Hauser & Calafat 2005)。

難燃剤として使われる臭素系の難燃剤、ポリ臭化ジフェニルエーテル(PBDEs)は、有害な残留性有機汚染物質(POPs)の1つとしてもよく知られており、甲状腺攪乱作用や神経毒性があります(Oehlmann et al. 2009, Halden et al. 2010, Lithner et al. 2011)。

添加剤の中でもフタル酸、BPA、ノニルフェノール、臭素系の難燃剤は環境中で最もよく検出される添加剤です。これらのプラスチック添加剤は様々な経路を通して海洋環境に漏れ出ていきます。

工場や自治体からの排水、大気からの沈降、農業で汚泥を使用した際にそれが川を経由して流れてくるなどです(Hermabessiere et al. 2017)。

加えて、海に捨てられたプラスチック製品やマイクロプラスチックからも添加剤が滲み出てきます。

プラスチックが劣化して微細化する(小さくバラバラになる)と、プラスチックの新しい表面が現れ、その度に添加剤が外部へ溶出するようになります(Wright et al. 2017)。

ただし、添加剤が溶出する度合いは、添加剤の分子量や不安定さ、pHや温度などの環境条件、プラスチックポリマーの透水性により異なってきます(Zweifel 2001)。

添加剤の疎水性が高い場合にはあまり溶出せずにプラスチックに留まることになります(Yamashita et al. 2016).

化学物質のカクテル

カクテルグラスにそそがれるマイクロプラスチック

このような有害な添加剤を含んだプラスチックが海に入るとどうなるのでしょうか?

添加剤を含んだプラスチックごみやマイクロプラスチックは、いとも簡単に生物に誤食され、生物の体内・組織に取り込まれるのです(Browne et al. 2013, Rochman et al. 2013, Andrady 2017)。

添加剤は主に親油性のため、細胞膜を通過して生化学的に反応し、毒性作用を引き起こします。

問題はそれだけではありません。海で見つかるプラごみには、添加剤だけでなく海水から吸着した人工有機汚染物質が含まれています。

プラスチックは疎水性が高いため、親油性で残存性のある様々な種類の有機汚染物質を引き寄せプラスチックに吸着していくのです。

海のプラゴミは化学物質のカクテルと呼ばれる所以です。

毒にまみれたプラごみがプランクトンや魚などの動物に食べられ、体内で蓄積し、やがて私たちの食卓に上がってきています。

しかしどのくらい体内で濃縮するのか、何種類の添加剤が食物連鎖を通して移行してくるのか、仮に移行してきても、その濃度は人体に影響をあたえるほどなのか、まだはっきりとした答えは出ていません。