ポリスチレン(PS)の安全性

ポリスチレンでできたプラスチックカップ

ポリスチレンとは?

ポリスチレン(polystyrene, PS)は、スチレンを重合して製造される合成樹脂で、スチロール(ドイツ語)とも呼ばれます。ポリスチレンにたくさん空気をいれると発泡スチロール(発泡ポリスチレン)になります。

ポリスチレンの特性は、水や薬品に強く、透明で、電気の絶縁性にも優れていることです。成型品・包装材に向いています。しかし、もろいのが欠点です。CDの透明ケースは、すぐにヒビが入って割れてしまいますよね。ポリスチレンだからです。

耐熱性はあまりよくなく、耐熱温度は70-90℃です。ポリスチレンの国内の年間生産量は、124万トン(2017年)です(塩ビ工業・環境協会)。

ポリスチレン

ポリスチレンの主な用途

ポリスチレンの主な用途は、包装用が多く、需要構成の約半分を占めています(高野2017)。ポリスチレンは、コーヒーカップのフタ、使い捨てフォーク、使い捨ての食器,包装フィルム、ボールペンの軸などに利用されています。

一方、発泡タイプのポリスチレン(発泡スチロール)は、食品トレー、カップ麺の容器、保冷容器、建築用の断熱材、緩衝梱包材などに幅広く使われています。

原料のスチレンにブタジエンゴムを混ぜて重合すると、耐衝撃性に優れたハイインパクト・ポリスチレン(HIPS)になります。半透明で白っぽい色をしています。コーヒーカップの使い捨てのフタや、使い捨てのプラコップ、ヨーグルトやヤクルトなどの乳酸菌飲料・食品容器などに利用されています。

ポリスチレン

ポリスチレンの安全性?

ポリスチレンの原料となるスチレンは、2011年に米国国家毒性プログラム(National Toxicology Program, NTP)によって人間に発がん性の疑いがあることが示され(Report on Carcinogens, 14thEdition)、カリフォルニア州法プロポジション65において発がん性物質にリストされています(OEHHA 2015)。

ポリスチレンは、モノマーであるスチレンを重合してポリマーにしたものですが、反応しきれなくて残留するスチレンが存在します。この残留モノマーは、合成後に精製する段階で除かれたり、加工プロセス中に反応して減ったりしますが、原料中の不純物もありコストのことを考えれば、スチレンが完全に100%ポリマーになっているということはないでしょう。

そのため、僅かにスチレンが残留することになります。たとえば、ポリスチレンの容器に、熱い飲料をいれたり、飲料を長期間保存すると、スチレンが飲料に溶出します(Ahmad & Bajahlan 2007)。しかし、残留スチレンの量は微量であるため、ポリスチレンは比較的安全なプラスチックと考えられ、食品のトレーなどにも使われています。

先に紹介した研究では、ポリスチレン容器に熱い飲料(70℃以上)いれると、最大で約70 µg/Lのスチレンが検出されましたが(Ahmad & Bajahlan 2007)、この値は米国毒性物質・疾病登録庁(ATSDR)の定めるボトル飲料中のスチレン濃度上限(0.1 mg/L、ATSDR 2012)よりもかなり低い値です。

現時点ではポリスチレンは比較的安全と考えられていますが、予防原則の立場からはポリスチレンを積極的に使う理由もないでしょう。