今やプラスチックごみは,海洋生物の餌に当たり前のように混入するようになっています.
そしてプラスチックの誤食(誤飲)によって被害を受ける海洋動物の数は増えるいっぽうです(Kühn et al. 2015).
海洋の動物は,プラスチックごみを摂食することでプラスチックをより広範囲に拡散させます.
というのは,プラスチックを食べた動物が移動することで,プラスチックを食べた場所と違う場所に運ぶからです.
これをプラスチックの生物輸送といいます.
地中海のイワシクジラは,その大きな口で1日に数千個のマイクロプラスチックを飲み込んでいると考えられています(Fossi et al. 2014).
そして糞をすることで別の海域に,あるいは深層にプラスチックを運びます.
海から陸地へ運ばれるプラスチックごみ
プラスチックの生物輸送は海鳥でよく知られています.
南極では,アシナガウミツバメの親鳥が海からプラスチックを見つけては,お腹をすかせたヒナ鳥の待つ繁殖地に持ち帰ります(Van Franeker & Bell 1988).
ヒナ鳥は,親からもらう餌に混じったプラスチックを食べ巣立ちをする前にプラスチックが原因で死亡しています.
したがって,親がせっせと海から運んできたプラスチックは,南極の陸地に永久的に残っています(Van Franeker & Bell 1988).
北海では,フルマカモメのほぼすべての個体がプラスチックを誤食しています.
1羽あたりに平均して35個のプラスチックを食べているため,年間で考えると6億3000万個のプラスチック片(重さにして6トン)を摂取し,これをせっせと繁殖地などに輸送している計算になります(Van Franeker 2011).
ミッドウェイ環礁でも似たようなことが起きています.
ここに生息するコアホウドリの健康なヒナは平均して10gのプラスチックを食べており,死んだヒナでは20gのプラスチックを食べています.
そのためコアホウドリの親(約60万のペア)が,年間に約6トンのプラスチックごみを海から陸地に運んでいると推定されています(Auman et al. 1997).
単に運ぶだけではありません.
食べられることでプラスチックの大きさも変わってしまいます.
マダラフルマカモメは,食べたものを砂嚢(さのう)で1ヶ月ほどすりつぶして,最初に食べた量の75%ほどを吐き出します(Van Franeker & Bell 1988).
プラスチックを食べた場合には,吐き出されたプラスチックの大きさが,食べたときに比べてより小さくなっており,海の小さな生物に食べやすいサイズに変換されていきます(Van Franeker & Bell 1988).
海の表面から深層へ運ばれるプラスチックごみ
海の表面に浮いているプラスチックは,長い間沈むことはありませんが,フジツボなどの付着生物がつくことでやがて重くなり沈みます(Ye & Andrady 1991).
小さなマイクロプラスチックは,高密度に凝集した植物プランクトンの粘液に絡まりそのまま海底に沈むこともあるようです(Woodall et al. 2014).
プラスチック製の漁網に絡まって死亡したクジラなどの大型の動物は,その重みで海底まで沈んで行きますが,一緒にプラスチック製の漁網も海底へ道連れです.
マイクロプラスチックやさらに小さなナノプラスチックは,その小ささ故に大変に沈みにくいものです.
しかし動物に食べられることによって,これら微小なプラスチックはより深い深層へと積極的に運ばれていくと考えられています(Wright et al. 2013, Setälä et al. 2014, Cole et al. 2016).
1部の動物プランクトンやカタクチイワシなどの魚は,夜間に海の表層で餌を食べ明るい日中は暗い深層に潜って隠れています.
このような生物が海の表層でマイクロプラスチックを食べると,縦方向の移動,つまり鉛直移動(えんちょくいどう)によって,プラスチックは表層から深層に運ばれていきます(Choy & Drazen 2013).
マイクロプラスチックが糞と一緒に素早く沈降していく場合もあります.
たとえば,動物プランクトンに食べられたマイクロプラスチックは糞と一緒に排出されますが,プラスチックは糞の中にパックされているため,マリンスノーとなって深層まで沈降していきます(Cole et al. 2013).
魚がプラスチックを食べて死亡すると,そのままプラスチックと一緒に海の深層に沈降していきます(Van Cauwenberghe et al. 2013).
このような生物による鉛直的な輸送のことを,まるでポンプで表層から深層に送り込んでいるように見えるので,生物ポンプといいます.
プラスチックを運ぶちょっと変わった動物プランクトン
海には,オタマボヤ(尾虫類:びちゅうるい)というちょっと変わった動物プランクトンがいます.
この小さな動物もまたプラスチックを深層に輸送する手助けをしています(Katija et al. 2017).
オタマボヤは,粘液で作ったお家(ハウス)の中に住んでいます.
しっぽをひらひらさせて水流を起こし,海中を浮いている懸濁物をハウスの中に呼び込み,これを濾し取って食べています.
しかしあまりにろ過能力が高いので,すぐにハウスが詰まってしまいます(Alldredge 1976, Hopcroft & Roff 1998).
そのためオタマボヤはハウスを脱ぎ捨てては作り直します.
1日に6回くらい脱ぎ捨てることもあれば,暑いときには20回以上も脱ぎ捨てることがあります(Sato et al. 2003).
脱ぎ捨てたハウスはマリンスノーとなって深層に沈みます.
オタマボヤのハウスの中にマイクロプラスチックが呼び込まれることは十分に考えられますから,オタマボヤのハウスの沈降によってマイクロプラスチックも深層に運ばれていくでしょう.