現在、海洋の表層で見つかっているプラスチックごみの量は、本来予想されていた量よりもずっと少ないことが分かっています。
行方不明プラスチック
簡単に説明すると、1950年からから近年までに大量生産され、捨てられたプラスチックのうち、どのくらいが海に流れ込んだか、だいたいの推定がされています。また、これまでに作られたプラスチックの材質から、そのプラスチックが海水に浮くか沈むかもおおよそ推定ができています。
しかし、実際に海の表面に浮かぶプラスチックごみ量を研究者が調べ、コンピュータシュミレーションを使って、この地球上の海面に浮かぶプラスチックごみの総量を調べると、計算が合わないのです。
どう計算が合わないかというと、実際に海に浮いているプラスチックごみの量は、本来海の上を浮かんでいるはずだった比重の小さなプラスチック量の1%にも満たないのです。 残りの99%のプラスチックごみはどこかに行ってしまった(消えてしまった?)ことになり、「the missing plastics(失われたプラスチック)」と呼ばれています。
プラスチックは深海に沈んだ?
たぶん、深海に沈んだんだろうと多くの研究者は考えています。 でもどうして、軽いプラスチックが深海に沈んでしまうのでしょうか?
本来なら、ポリエチレンやポリプロピレンのように比重の軽いプラスチックは海面の上に留まっていてもおかしくはないわけです。 この「失われたプラスチック」が、どのようにして深海に沈んでしまうのか、そのプロセスを明らかにしようと、世界中で研究が進められています。
今回、ドイツの研究チームは、マイクロプラスチックが海水中の自然由来の粒子にくっつき、海水中で凝集することを突き止めました(Michels et al. 2018)。この凝集体こそが、マイクロプラスチックが深海へと沈んでしまうことを説明するかも知れません。
海洋には非常に膨大な数の有機物粒子が漂っています。そこには植物プランクトンや動物プランクトンのように生物そのものである場合もあれば、生物の糞粒や死骸、脱皮殻のような粒子(デトリタスといいます)の場合もあります。
このような、いわゆる生物由来の粒子は、お互いに相互作用して、凝集して、塊を作ります。そして重くなり、水柱を沈んでいきます。マリンスノーと呼ばれるものです。
マイクロプラスチックは、海岸や海の表層でどんどん増えており、これが絶え間なく海の外洋に流れ込んでいます。ですから、このうち比重の軽いポリエチレンのようなプラスチックは海の表層を漂い続け、その濃度はどんどん海の表層で高くなる「はず」ですが、実際には見かけ上は増えていません(Beer et al. 2018)。
マイクロプラスチックの凝集体
さらに近年、マイクロプラスチックが深海の海底の砂からも見つかり始めています(Woodall et al. 2014)。
どうやって、マイクロプラスチックは深海に運ばれてしまったのでしょうか?
ドイツの研究チームは、大きさが700-900 µm ほどのマイクロプラスチックのビーズを使って凝集実験を行いました(Michels et al. 2018)。植物プランクトンなどの生物由来の粒子がある条件とない条件でビーズが凝集するか調べるわけです。
結果は明白で、生物由来の粒子がある条件では、マイクロプラスチックが凝集体を作っていました(Michels et al. 2018)。 マイクロプラスチックだけでは凝集体にはならないのですが、生物由来の粒子があると数日で安定した凝集体が形成されました。
実験開始から12日後には、73%のマイクロプラスチックが凝集体の中に閉じ込められていたのです(Michels et al. 2018)。
さらに、マイクロプラスチックの表面にバクテリアや藻類などが付着しているほうが、より高速に(数時間で)凝集体を形成することもわかりました(Michels et al. 2018)。
海の表面をただようマイクロプラスチックには、当然、バクテリアや藻類が付着しているでしょうし、周囲にはたくさんの植物プランクトンやその他のプランクトン由来の粒子があります。
海の表面には、「海面ミクロ層」という、有機物が濃縮された膜があるので、海の表面を漂うマイクロプラスチックが凝集体になることは自然界ではしょっちゅう起こっていると考えられます。
こうして、生物由来の凝集体の中に閉じ込められたマイクロプラスチックは、マリンスノーとなって深層へ沈んでいきます。これが、海の表面から深海へマイクロプラスチックを輸送する1つのメカニズムになっているのでしょう。