海水中でプラスチックから溶出する化学物質が危ない

海洋マイクロプラスチック

プラスチックのポリマーそのものは,一般的には人体に無害あるいはほとんど害がないとされています.

一方で,プラスチックの製造に使われる添加剤(てんかざい)やポリマーの中に残留するモノマーがヒトや生物の健康を脅かすと言われています(Araujo et al. 2002).

この記事ではプラスチックの添加剤とその影響について紹介します.

プラスチックができるまで

樹脂ペレット(レジンペレット)

プラスチックの中間原料となる樹脂ペレット(レジンペレット)

この話しをする前に,プラスチックがどうやって作られるかを手短にみていきましょう.

プラスチックを作るとき,原料となるモノマー(単量体)をたくさんくっつけて高分子のポリマー(重合体)にします.

例えば,ポリエチレン(PE)なら,エチレンというモノマーを数万個くっつけて(重合させて),ポリマーにしたのがポリエチレンです.

モノマーの「モノ」はひとつという意味で,ポリマーの「ポリ」はたくさんという意味です.

モノマーは,ほとんど常温で気体か液体ですが,これを数万個くっつけると常温で固体になり,いわゆるプラスチックになります.

プラスチックの添加剤とは?

塩ビパイプ

塩ビパイプとしてよく知られるポリ塩化ビニル Photo: Dennis Hill/Flickr (CC BY 2.0)

プラスチックを製造・加工するときに添加される化学物質を添加剤といいます(Andrady 2016).

添加剤を加えることで,プラスチックの特性を思い通りに変化させることが出来るのです.

添加剤には,安定剤,可塑剤(かそざい,やわらかくするために使う),酸化防止剤,紫外線吸収剤,帯電防止剤,抗菌剤や難燃剤などがあります.

たとえば,ポリプロピレンは酸化しやすいため,かなりの量の酸化防止剤と紫外線吸収剤が加えられます(Zweifel 2001).

塩ビパイプや合成革などに使われるポリ塩化ビニル(PVC)は,もっとも添加剤を含むプラスチックのひとつで,製造時にポリマーを安定にするために熱安定剤が加えられ,また変形させるために大量の可塑剤が加えられます(Lithner et al. 2011).

一般的に添加剤は分子量が低いため,ポリマーとは化学的に結合していません.そのため添加剤はプラスチックから空気中,水中,食品中,そしてヒトなどに溶出する場合があります(Tickner 1999, Crompton 2007).

人体に有害な添加剤もある

添加剤には,生物やヒトに有害な化学物質が含まれます.

最もよく知られているのは可塑剤としても使われるビスフェノールA(BPAでしょう.

その他にも有害な添加剤はたくさんあり,臭素系難燃剤フタル酸系の可塑剤鉛系の熱安定剤なども含まれます(Lithner et al. 2011).

これらは生殖毒性や神経毒性が知られています(Oehlmann et al. 2009, Halden et al. 2010, Lithner et al. 2011).

臭素系難燃剤はABS樹脂(アクリロニトリルブタジエンスチレン)やウレタンフォームによく使われていますし,フタル酸系の可塑剤や鉛系熱安定剤はポリ塩化ビニル(PVC)の製造によく使われます(Galloway 2015).

とくにフタル酸ビス(2-エチルヘキシル)(DEHP)に代表されるフタル酸系の可塑剤は,ポリ塩化ビニルの製造においてもっとも使われる添加剤で,製品重量の10-50%を占めることも珍しくありませんし(Oehlmann et al. 2009),ときには最終製品の重量の80%を占める場合もあります(Buchta et al. 2005).

ポリウレタンのスポンジ

ポリウレタンフォームの例 Photo: Horia Varlan/Flickr (CC BY 2.0)

プラスチックの製造に使われる化学物質は確実に人体に残っています(Galloway 2015).

たとえば,成人はおよそ0.2-20ナノグラム/尿mLのビスフェノールAに曝露されており,ヒトの健康に悪影響を及ぼす可能性が指摘されています(Lang et al. 2008, Melzer et al. 2012).

また米国民健康栄養調査(NHANES)は,一般市民の体内からビスフェノールA,フタル酸,スチレン,アクリルアミド,トリクロサン,臭素系難燃剤などのプラスチックの製造に使われる化学物質が検出されることを報告しています.

化学物質がプラスチックの包装から食品へ乗り移ることが,人がプラスチックから影響を受ける主要なルートと考えられていますが(Grob et al. 2006),成人における血漿中のビスフェノールAの濃度は飲食品から摂取されると予想される量を超えており,その他の曝露も疑われています(Mielke et al. 2009).

海水中で溶出する添加剤

マイクロプラスチック

海で採集されたマイクロプラスチック Photo: Chesapeake Bay Program/Flickr (CC BY-NC 2.0)

このような添加剤を含んだプラスチックが海に入るとどうなるのでしょうか?

もちろん一部は海水に溶出するでしょう.

プラスチックが劣化してバラバラに砕けることで,プラスチックの新しい表面が現れ,その都度,添加剤が外部へ溶出するチャンスも増えます(Wright et al. 2017).

ただし添加剤が溶出する度合いは,添加剤の分子量や不安定さ,pHや温度などの環境条件,プラスチックポリマーの透水性によります(Zweifel 2001).

また添加剤の疎水性が高い場合にはあまり溶出せずにプラスチックに留まります(Yamashita et al. 2016).

そして動物がプラスチックを誤食(誤飲)したときに,添加剤が動物の組織に移行することが知られています(Browne et al. 2013, Rochman et al. 2013, Andrady 2017).

もちろん,海に入りこんだ全てのプラスチックに危険な添加剤が含まれているわけではありません.

しかし海でもっとも多く,普遍的に見られるマイクロプラスチックは,様々なプラスチック製品の破片の寄せ集めですから,そういった添加剤を含んでいる場合が多々あります(Andrady 2017).

まとめ

海洋プラスチックごみが人間の健康に与えるリスクについては,まだまだ議論の余地がたくさんあります.

私たちがどのくらいプラスチックごみを食べてしまっているのかまだよく分かっていません.

仮に食べていても食べたプラスチックごみに含まれる添加剤が,どのくらい私たち人間の健康を害するかも分からっていないことだらけです(Wright et al. 2017).

ただし忘れてはいけないことは,いま海のプラスチックの量はすごい勢いで増えていることです.

言い換えると、プラスチックの化学物質の量も増えていると言うことです.

さらなる研究が望まれています.