少し前の話しになりますが,イタリアの研究チームが,小さなプラスチック粒子であるマイクロプラスチックを北極海で見つけたと発表しました(Lusher et al. 2015).
北極海のマイクロプラスチック
研究チームは,ノルウェー・スヴァールバ諸島の南と南西に位置する北極海で行われた調査航海で,水面付近と水面から6メートル下から海水を採集しました.
すると採集した全ての海水からマイクロプラスチックが見つかりました(Lusher et al. 2015).
さらに深い場所ではもっとたくさんのマイクロプラスチックが見つかっています.
人間活動から遠く離れた北極は,当然汚染されていないものだと思われていました.
しかしそれが事実でないことを科学者は知ることになります.
研究チームが北極海で見つけた微小なマイクロプラスチックは,大きさが平均1.9ミリメートルで,顕微鏡なしで見ることは困難なサイズです.調べたマイクロプラスチックの95%は繊維(マイクロプラスチックファイバー)でした(Lusher et al. 2015).
漁業や釣りで使用された漁網や釣り糸や,プラスチック製品が微細化して小さな破片になったものが,長い距離を移動してスヴァールバル沖までやってきたと見られています.
また下水処理施設から抜け出してきたマイクロプラスチックファイバーも含まれている可能性があります.
さらにマイクロプラスチックには,ケア用品に含まれるマイクロビーズも含まれていました(Lusher et al. 2015).
スクラブ入りの洗顔料や歯磨き粉等のケア用品の多くには,古い角質を落とすため,身体を洗うために小さなプラスチックのビーズ(マイクロビーズ)が含まれています.
北極の氷にもプラスチック
しかし,北極で見つかったマイクロプラスチックは,これが始まりではありません.
アメリカとイギリスの研究チームは,北極の氷の中からも数多くの明るい色のプラスチックの欠片を見つけています(Obbard et al. 2014).
海水が凍るとき,水柱に含まれていた様々な粒子が氷の中に閉じ込められます.
そのときにマイクロプラスチックも氷の中に閉じ込められていたのです.
氷中から見つかったマイクロプラスチックの数は,1平方メートルあたりに38粒から234粒でした(Obbard et al. 2014).
この数は,グレートパシフィックごみパッチとして悪名高い太平洋ごみベルトで見られる濃度(1平方メートルあたり約1個)よりもずっと高い数です(Law et al. 2014).
北極の氷は,地球温暖化によって海水が凍るよりも速い速度で溶け出しています(Gregory et al. 2002, Laxon et al. 2013).
氷が溶け出し,閉じ込められていたマイクロプラスチックが漏れ出していると研究者は考えています(Obbard et al. 2014).
北極でもマイクロプラスチックが普遍的に見つかったというこれら一連の報告は,地球上のどんな遠い場所にもプラスチックが存在し,プラスチックからは逃げることはできないことを語っています.
さらに北極の食物網にもプラスチック片が混入していることを示唆しています.