食用魚に紛れ込むマイクロプラスチック問題

魚の料理

マイクロプラスチックは,浜辺や浅い海から深い深海まで,海のありとあらゆる場所で見つかっています.

そして無数の海洋動物に食べられています.そこには私たちが食用とする魚類や貝類も多く含まれています(Kühn et al. 2015).

カタクチイワシの消化管からプラスチックごみ

東京農工大の研究チーム(高田教授)は,煮干しの原料となるカタクチイワシ(Engraulis japonicus)の消化管からプラスチックが見つかったと発表しました(Tanaka & Takada 2016).

カタクチイワシは煮干しとして利用されるだけでなく,その稚魚は「シラス」として私たちが親しんでいる魚でもあります.

研究チームは,東京湾で採集された体長10cmほどのカタクチイワシ64匹の消化管を調べ,そのうち約8割となる49匹の消化管から,合計150粒のマイクロプラスチック(1匹あたり平均2.3粒)を見つけました(Tanaka & Takada 2016).

150粒のマイクロプラスチックのうち,約8割は大きさが0.1 mmから1 mmの大きさであったといいます(Tanaka & Takada 2016).

魚体内から見つかったマイクロプラスチックの大部分はポリエチレンやポリプロピレンの破片で,中には洗顔料のスクラブ粒として利用されるマイクロビーズと思わしき粒状のプラスチックも含まれていました. カタクチイワシの煮干し

世界中の食用魚の消化管からプラスチック

日本のカタクチイワシだけではありません.

マイクロプラスチックは世界中で様々な食用魚に誤食(誤飲)されています(Anastasopoulou et al. 2013, Foekema et al. 2013, Lusher et al. 2013, Collard et al. 2017, Collard et al. 2015, Romeo et al. 2015, Romeo et al. 2016, Neves et al. 2015).

太平洋ごみベルトで有名な北太平洋環流では,調べた魚の10%-35%の消化管の中からプラスチック片が見つかっています(Boerger et al. 2010, Davison & Asch 2011).

ヨーロッパでは,英仏海峡に生息するニシン,マイワシ,カタクチイワシ,アジ,ホワイティング,マトウダイ,ホウボウ,カレイの仲間などの重要な食用魚からプラスチック片がでてきました(Lusher et al. 2013, Collard et al. 2015, Collard et al. 2017).

魚

北海とバルト海でも,ニシン,アジ,タラ,コダラ,カレイの仲間などの消化管からプラスチック片が見つかっています(Foekema et al. 2013, Rummel et al. 2016).

また,ポルトガルの沿岸でも,26種の食用魚のうち17種類からプラスチック片が消化管内でみつかっています(Neves et al. 2015).

地中海でもハダカイワシからプラスチック片がみつかりました(Romeo et al. 2016).

アメリカとインドネシアの魚市場で購入した魚を調査した研究では,なんと4匹のうち1匹の割合(25%!)で消化管からプラスチック(破片または繊維)が見つかったと報告しています(Rochman et al. 2015). 魚

ニシン,アジ,イワシなどのろ過食性(プランクトン食性)の魚は,プランクトンを食べる際に一緒に紛れ込んだマイクロプラスチックを摂食していることが考えられています.

一方で,タラなどの海底の無脊椎動物(貝など)を食べる魚は,海底生物が食べたプラスチックを一緒に飲み込んでいる可能性があります.

プラスチックを食べたプランクトンを食べてしまうこともあるでしょう.これをプラスチックの2次摂食といいます.

プラスチックを食べた魚を食べることによる2次摂食も起きています.

地中海では,メカジキ, タイセイヨウクロマグロビンナガといった大型の回遊魚から,調査した個体の約2割の消化管からプラスチックがでてきています(Romeo et al. 2015).

マグロ

魚の健康に影響はないのか?

現時点では,胃の中に(わずかに)プラスチックがあるからと言って,それがどれだけ魚の健康状態に影響があるかはよくわかっていません(Foekema et al. 2013, Davison & Asch 2011, Rummel et al. 2016).

小さなマイクロプラスチックそのものは糞と一緒に速やかに排出されてしまうと考えられています(Mazurais et al. 2015).

一方で,肝臓からもマイクロプラスチックが見つかっており,プラスチックは臓器へ移行することも懸念されています.

カタクチイワシやマイワシ,ニシンでは実験的に与えたマイクロプラスチックが肝臓にも運ばれていたことが報告されています(Collard et al. 2017).

ボラの仲間でも食べさせたマイクロプラスチックが肝臓に移行していました(Avio et al. 2015).さらに マイクロプラスチックの中でも特にサイズが小さなものは消化管を通り抜けて末梢血に入り,最終的に肝臓に至ると考えられています.

大きさがほとんど1mmよりも小さなマイクロプラスチックには製造過程で加えられた添加剤や海中から吸着した内分泌攪乱物質などの様々な有害化学物質が含まれている場合があります(Rochman 2015).

マイクロプラスチックは、これらの有害な汚染物質を魚や海洋生物へ橋渡しする媒介者になっていると多くの研究者が指摘しています.

汚染物質を媒介するマイクロプラスチック

マイクロプラスチックが海中から吸着する有害化学物質には、過去に製造と使用が禁止されたDDTやPCBといった(体内に)残留性のある有機汚染物質(POPs)が含まれます.

このようなPOPsは親油性があり,油を引きつけやすいプラスチックにとくに吸着される傾向にあります.

また素のプラスチックでは柔軟性や衝撃耐性に難があり,可塑剤や酸化防止剤など様々な添加剤が加えられます.

さらにプラスチックに燃えにくくする,耐候性を持たせるなどの特性を与えるためにも実に様々な化学物質が添加されます.

このようなプラスチック添加剤の中には,臭素系の難燃剤や紫外線吸収剤など,体内に蓄積性(残留性)があり,また生殖機能に影響する内分泌かく乱作用をもつ化学物質(環境ホルモン)も含まれています.

こういった様々な有害化学物質を含むマイクロプラスチックが魚や海洋生物へ誤飲されると,油を含む消化液に溶け出して脂肪組織などに取り込まれ体内で濃縮していきます.

イタリアの研究チームは,マイクロプラスチックが吸着した汚染物質が魚の健康状態に影響を与えること報告しています(Pedà et al. 2016).

研究チームは,ポリ塩化ビニルで作ったマイクロプラスチックと,それを汚染された海域にしばらく「漬けておいて」汚染物質を吸着させたマイクロプラスチックを用意し,魚(ヨーロピアンシーバス)に食べさせました.

その結果,素のマイクロプラスチックを食べさせた魚と汚染したマイクロプラスチックを食べさせた魚では,それぞれ摂食60-90日後に腸下部に中程度から著しい変形が認められました(Pedà et al. 2016). マイクロプラスチック

プラ入りの魚を食べても人体に影響はないのか?

世界的には,人ひとりあたりに年間でおよそ20kgの魚を消費すると言われており,海産物が世界のタンパク質消費量の約17%を支えています(FAO 2014).

そのためプラスチックが人間に誤食される可能性も十分に考えらます.近頃では魚の缶詰からもマイクロプラスチックがでてきています.

現時点では食用魚1匹に含まれるマイクロプラスチックの量は多くても数個であり,魚を食べることがすぐに問題になるとは考えられないでしょう.

ただし,プラスチックの大量生産と大量消費にともない海中のマイクロプラスチックの総量は確実に増えており,我々の食べる魚の体内から驚くべき量のプラスチックがでてくる日はそう遠くないかも知れません.

また普通,魚のワタ(内蔵)まで食べることは少ないので,マイクロプラスチックを直接食べてしまうことはないから大丈夫と考える人もいるでしょう.

しかしイワシやシシャモ、サンマなどの小魚は内蔵も一緒に食べる場合がありますし,ましてプラスチックから魚の脂肪に乗り移った有害化学物質まで避けるのは不可能です.

最近は食用としてよく利用されている深海魚ですが,深海魚からもマイクロプラスチックが検出されています(Anastasopoulou et al. 2013).

海面を浮遊するプラスチックはやがて沈んでほとんどが深海に行くと考えられているため,深海生物のプラスチック汚染は浅い海よりも大きいと考える研究者もいます.

私たちが食べている深海魚には,白身フライにはメルルーサ,回転寿司ではマグロの代用にアカマンボウ,油がのって美味しい金目鯛やキチジ(きんき)など様々な種類があります.

海のマイクロプラスチックと直接の関係はないですが,魚の缶詰の場合は,缶詰容器の内側にほどこされたプラスチックのコーティングにビスフェノールA(BPA)が使われていることがあります(最近はPETのほうが主流です).

缶詰からBPAが魚に乗り移っているため(Lim et al. 2009),BPAコーティングの缶詰を常食していると問題になる可能性があります.

食用魚だけでなくムール貝やアサリ,ハマグリといった二枚貝からもマイクロプラスチックの摂食がたびたび報告されています.

ただし,プラスチックを誤食したシーフード(海産物)を食べることで,それが人間の健康にどう影響を及ぼすか,そのリスクについてはまだよく分かっておらず,さらなる研究が必要とされています(Lusher et al. 2017).

それにしても,人が食べるだけに心配はつきません.