何十年も前から,海洋動物,特に海鳥,ウミガメ,海洋哺乳類が,プラスチックごみに絡まり,プラスチックごみを食べていることが知られてきました(Kühn et al. 2015).
しかし近年,プラスチックごみが微細化してマイクロプラスチックとなり,危険な化学物質を溶出・吸着して食物網に取り込まれ,最終的に人間に帰ってくるという懸念が強まっています.
マイクロプラスチックは海のありとあらゆる場所に拡散しており,もはや回収は不可能です.
汚染物質を含むマイクロプラスチックを知らないうちに体に取り込んでしまう海洋動物はたくさんいます.その1つがオットセイやアザラシです.
マイクロプラスチックを知らずに取り込むオットセイ・アザラシ
オットセイやアザラシが,廃棄された漁網などの海洋ごみ(ゴーストネット)に絡まってしまうことは古くからよく知られています(Laist 1997).
一方,これまでに12種のアザラシ上科(アシカ科とアザラシ科)がプラスチックごみを誤食(誤飲)していることが報告されています(Kühn et al. 2015).
必ずしも消化管からいつもプラスチックがでてくるわけでありませんが(Ryan et al. 2016),ニュージーランドの南にあるマッコーリ島ではナンキョクオットセイの糞からプラスチック片が見つかっています(Eriksson & Burton 2003).
ナンキョクオットセイの糞から見つかったプラスチック片のほとんどは大きさが1 cmよりも小さなかけらだったので,おそらくオットセイが主食とするハダカイワシ科の魚が食べたプラスチックをハダカイワシと一緒に食べてしまったのではないかと考えられています(Eriksson & Burton 2003).
プラスチックの2次摂食
このように捕食した獲物の体内に入っていたプラスチックを(知らずに)摂食してしまうことを,プラスチックの2次摂食といいます.
オランダでは,ゼニガタアザラシの個体群の約10%からプラスチックが胃中から見つかっていますが,これもやはり餌として食べた魚に由来する2次摂食と考えられています(Bravo Rebolledo et al. 2013).
多くの大型捕食者の餌となっているハダカイワシ科の魚の胃からは,小さなマイクロプラスチックが見つかっています(Boerger et al. 2010, Davison & Asch 2011).
そのためオットセイやアザラシでは,研究で報告されているよりも実際にはもっとたくさんの2次摂食が起きているだろうと推察されています(Kühn et al. 2015).
体に蓄積する有害物質
プラスチックごみを間違えて食べた野生動物は,吐き出せない場合プラスチックが胃腸の中に蓄積し,栄養状態の悪化と子孫を残す能力(再生産力)の低下が起こり,生残率も低下します(Bjorndal et al. 1994, McCauley & Bjorndal 1999).
加えてマイクロプラスチックは汚染物質の運び手(キャリアー)になります.
サイズが小さなマイクロプラスチックは体積辺りの表面積が大きいため,海洋環境に残留しているPCBsやDDT(殺虫剤)などのさまざまな有害化学物質を多く吸着します(Rochman 2015).
マイクロプラスチックという「化学物質のカクテル」を誤食したハダカイワシなどの魚類をアザラシ類が食べ,食物連鎖を通じて危険な化学物質が体内に濃縮していくことはあり得ることです.
ただし,どれほど影響があるかはまだよくわかっていません.