イタリアの研究チームは、捨てられた漁具が地中海の海底谷に溜まり、貴重な深海サンゴに絡まり破壊していることを無人探査機の調査で明らかにしました(Cau et al. 2017)。
毎年、数百万トンのプラスチックごみが海洋環境に流れ込んでおり、海洋プラスチックごみは超緊急の国際問題になっています(Jambeck et al. 2015)。
海洋プラスチックごみは世界中の海で確認されており、もはやプラスチックに汚染されていない海域はないと見られています。
プラスチックごみの多くは海洋の表層に浮かんでいますが、比較的大きなごみや、比重の重たいプラスチックは、海底へと沈んでいきます。
海底に沈んだプラスチックごみは、海底に住む生物の住処になる場合もありますが(Melli et al. 2017)、多くの底生動物が被害を受けているのもまた事実です。
特に問題なのが遺棄された漁具
これらは漁船から捨てられた漁網や釣り糸などで、それが故意であろうとやむを得ない事情(紛失など)であろうと、海に遺棄された漁具全般を指します。英語では、derelict fishing gears (DFGs)やゴーストネットと呼ばれます。
遺棄された漁具は、海底に生息する様々な生物に絡まり、脆弱な海底の生態系を破壊しています(Pham et al. 2013, Smith & Edgar 2014)。
ほとんどの漁具は、プラスチックでできており、消えることはありません。
遺棄された漁具に絡まったまま生活する海底動物は数多く報告されています(Adey et al. 2008, Erizini et al. 2008, Antonelis et al. 2011, Anderson & Alford 2014, Bilkovic et al. 2014, Kim et al. 2014, Uhrin et al. 2014)。
たとえば、ロブスター、カニ、タコ、魚など、様々な海洋生物が、海底に横たわるゴーストネットに捕まったまま生活をしていたことが知られています(Al-Masrori et al. 2004, Matsuoka et al. 2005, Erzini et al. 2008, Antonelis et al. 2011, Cho 2011)。
抜け出すことができない動物は、動きが制限され、餌を食べる能力が落ち、ストレスや傷害、餓死によって死んでいきます(Arnould & Croxall 1995, Laist 1997, Moore et al. 2009, Allen et al. 2012)。
海綿やソフトコーラルなどのもろい動物では、部分的に体が壊され、感染症が進行し、最終的に死に至ります(Bavestrello et al. 1997, Schleyer & Tmalin 2000, Asoh et al. 2004, Yoshikawa & Asoh 2004, Chiappone et al. 2005)。
深海底を覆うプラスチック製の漁具
今回イタリアの研究チームは、地中海に浮かぶ大きな島、サルデーニャ島周辺の海底(水深100m〜480m)に沈むごみを調べました(Cau et al. 2017)。
研究チームは、無人探査機を使って海底の映像を撮影し、映像に写るごみの量や種類を調べていきました。 映像から確認できるごみなので、比較的大きなごみになりますが、それでも調査したすべての場所(17カ所)からごみが見つかりました。
全部で234個のごみが見つかり、そのうち約9割がプラスチックごみでした(Cau et al. 2017)。 これらのプラスチックごみのうち、約8割が遺棄された漁具だったのです(Cau et al. 2017)。
とくに漁具は、海底谷に多く溜まっていることがわかりました。海底谷とは、海底の大陸斜面に存在する谷のことです。
貴重な深海サンゴに絡まる
海底谷は、数少ない貴重な深海サンゴが多く生息する場所の1つです。深海サンゴは極めて成長が遅いため、一度破壊されるとその修復に極めて長い年月(数十年〜数百年)を必要とします(Clark et al. 2012)。
こういったサンゴが生息する海底谷に大量の漁具がひしめいているのです。 地中海の海底では、目視で確認できるだけでも100以上のサンゴ虫類の群体に漁具が絡まっていました(Cau et al. 2017)。
もっとも被害を受けていたのが、ヤギ目のサンゴ虫で、さらにサンゴ科や黒サンゴの仲間なども漁具に絡まっていました(Cau et al. 2017)。
海底谷はきわめて脆弱な生態系として知られており、海底谷の付近で漁具が紛失・遺棄されるのを最小限に抑えることが緊急の課題だと研究チームは指摘しています。