衣服の洗濯から発生して下水をすり抜けるマイクロプラスチックの問題

マイクロプラスチックのファイバー

フリースなど合成繊維の衣類を洗濯するとマイクロプラスチックが大量に発生することが明らかとなり大きな問題となっています.

今回は,この衣類から発生するマイクロプラスチックに焦点を当ててみましょう.

化学合成繊維

布地の製造にはいろいろな繊維が使われており,たとえばコットンやウールのような天然繊維から,ポリエステルやナイロン,アクリルのような化学合成繊維,そして綿とポリエステルの混合のような天然−合成繊維の混合タイプがあります(Napper & Thompson 2016).

合成繊維は,ファイバー状(繊維状)のプラスチックです.

このプラスチックの繊維は,従来の天然素材の欠点を補う形で,過去50年以上にわたり衣服からカーペット,毛布,カーテンなど幅広い種類の布地に使用されてきました.

現在の衣類業界は,布地の生産のかなりの割合を合成繊維に頼っており,実のところ合成繊維の世界生産は天然繊維の生産を超えています(Shui & Plastina 2013).

1回の洗濯で70万本のマイクロファイバー

コインランドリーの洗濯機

しかし合成繊維の布地を洗濯機で洗濯すると大量のマイクロプラスチックが発生することがわかってきました(Browne et al. 2011, Dris et al. 2015, Essel et al. 2015, GESAMP 2015, Wentworth & Stafford 2016, Napper & Thompson 2016).

合成繊維の布地から発生するマイクロプラスチックは,マイクロプラスチックファイバー,あるいは単にマイクロファイバーと呼ばれます(ファイバー=繊維).

UKとオーストラリアの研究チームは,ポリエステル製の毛布,フリース,シャツを洗濯したところ,フリースがもっともマイクロプラスチックファイバーを放出し,1回の洗濯で1点の衣服から最大1900本以上のファイバーが放出された報告しています(Browne et al. 2011).

さらにイギリスの研究チームは, アクリル,ポリエステル,綿−ポリエステル混合の3種類の化学繊維の服を家庭用の洗濯機で洗い(通常想定される6kgを洗濯),どのくらい繊維が放出されるかを調べました(Napper & Thompson 2016).

その結果,アクリルがもっともファイバーを放出し,1回の洗濯で73万本の化学繊維を放出していました.これは綿−ポリエステル混合の約5倍,ポリエステルの約1.5倍に相当します(Napper & Thompson 2016).

アウトドアメーカーのパタゴニアの支援を受けて行われた研究では,フリースのジャケットを1回洗うと最大2.0グラムのマイクロプラスチックファイバーがでてくることがわかりました(Hartline et al. 2016).

さらに24時間連続して洗濯機を回し,洗いこんだフリースのジャケットの方が新品よりも25%も多くファイバーを放出しました(Hartline et al. 2016).

洗濯中の衣類

さらに洗剤を使う方が,水だけで洗うよりもたくさんのマイクロプラスチックファイバーが発生することがわかっています(Hernandez et al. 2017).

洗剤は粉でも液体でも放出されるファイバーの量に違いはありません(Hernandez et al. 2017).

また横型のドラム式の洗濯機よりも縦型の洗濯機の方が7倍も多くのファイバーを発生させることもわかってきました(Hartline et al. 2016).

最もマイクロプラスチックファイバーを発生させるフリースは冬にもっとも着られて洗濯されるため,ファイバーの発生は夏よりも冬の方がずっと多いだろうと推測されています(Browne et al. 2011).

洗濯だけでなく、食器を洗うのにアクリルタワシを使っても、それもプラスチックのマイクロファイバーの発生源になります。

下水処理場をすり抜けるマイクロファイバー

下水処理場の外観

家庭の洗濯機で発生したマイクロプラスチックファイバーは,下水を流れ,下水処理施設にたどりつきます(Leslie et al. 2013, Dris et al. 2015).

しかしマイクロプラスチックファイバーは極めて小さいため,かなりの割合が下水処理施設をすり抜けてしまい,最終的に川や海に流れこんでしまうのです(Carr et al. 2016Murphy et al. 2016Mahon et al. 2017Talvitie et al. 2015).

下水処理場から排水される「きれいな水」には,ポリエステルやアクリル,ナイロンなどのマイクロプラスチックファイバーが1リットルあたりに平均1本含まれています(Browne et al. 2011).

また下水処理場をすり抜けてきた繊維は,ポリエステル(67%),アクリル(17%),ナイロン(16%)で主に構成されており,この割合は処理場の近くの海岸で見られるファイバーの組成とほぼ同じだったと報告されています(Browne et al. 2011).

つまり,下水処理場から排水される水が,海のマイクロプラスチックファイバーの主要な発生源であることを意味しています.

一方で,下水処理施設を幸運にもすり抜けずに処理施設でトラップされたマイクロプラスチックファイバーは,沈殿して汚泥に紛れます.

この汚泥はやがて陸上に埋め立て廃棄さるのですが,汚泥に隠れていたマイクロプラスチックファイバーは雨風によって流され飛ばされ,結局は川や海に流れ込みます(Dris et al. 2015).

世界中の海から見つかるマイクロプラスチックファイバー

マイクロプラスチックファイバーは世界の海のあらゆるところから見つかっています.

たとえば,世界6大陸,18カ所の海岸で行われた調査では,すべての場所でマイクロプラスチックファイバーが見つかり,多い場所ではマイクロプラスチックの9割以上をファイバーが占めていました(Browne et al. 2011).

北大西洋,地中海,南西インド洋の深海(深度1000〜3500 m)からも,青や赤色のマイクロプラスチックのファイバーが海底の泥からたくさん見つかっています(Woodall et al. 2014).

海に入ったマイクロプラスチックファイバーは,所詮プラスチックであり,微生物に分解されることはほとんどありません.光の届かない冷たい深い海に沈んでしまえば(光分解や熱分解が起こらずに)半永久的に地球上に残り続けます.

小さなプラスチックの繊維が生態系に与えるインパクトはまだよくわかっていません.

しかし,様々な研究によって,多くの海洋動物が化学繊維(マイクロプラスチックファイバー)を間違えて食べていることが分かっています(Rochman et al. 2015).