人間に蓄積されたマイクロプラスチックを見つける新しい技術とは?

海洋マイクロプラスチック

小さな粒子でできているマイクロプラスチックは北極の雪やアルプスの土、深い海まで地球全体を汚染し続けています。そしてわたしたち人々はそれを食べ物や水、空気を介して体内に摂取しています。

しかし、人間の健康への影響はまだわかっていません。

今回、その問題に一歩前進する研究が発表されました。

人間の臓器の中にはいりこんだマイクロプラスチック粒子が発見できる技術があるとのことです。

新しい技術により、人の臓器からマイクロプラスチックの検出が可能に

Oregon state University https://flic.kr/p/yqFQZJ CC BY-SA 2.0

Oregon state University https://flic.kr/p/yqFQZJ CC BY-SA 2.0

今まで、マイクロプラスチックの微小な断片を人間の身体から特定するのは困難であると考えられていました。今回、アリゾナ州立大学の研究チームは、人の肝臓と脂肪組織にプラスチックが含まれているかを調べました (Rolsky et al. 2020)。

アリゾナ大のチームが質量分析法によって調べた結果、調べた47のすべての臓器・組織からプラスチックの元になるモノマーや、ナノーマイクロプラスチックを検出しました。この成果は、アメリカ化学学会(American Chemical Society)で発表されました (Rolsky et al. 2020)。

つまり、人間の臓器からマイクロプラスチック粒子が検出されうるということです。

さらに臓器からは、プラスチックの製造や添加剤に使われるビスフェノールA(BPA)も検出されました。BPAには生物の生殖、発達に対して毒性があることが知られてます。

さらに別の実験では、フローサイトメトリーとラマン分光分析を組み合わせた手法により、臓器・組織に添加したプラスチック粒子を検出することに成功しました (Rolsky et al. 2020)。

実験用に添加されたプラスチック粒子には、プラスチック製の飲料ボトルに使用されているポリエチレンテレフタレート(PET)やビニール袋に使用されているポリエチレンなど、数十種類のプラスチックが含まれます。

近い将来、マイクロプラスチックが人間に及ぼす影響が明確になる?

マイクロプラスチックは直径5mm未満のもので、ナノプラスチックは直径0.001mm未満のもの。 どちらも主に、環境に捨てられた大きなプラスチック片の摩耗から生じます(Peng et al. 2020)。

人々が年間に少なくとも50,000粒子のマイクロプラスチックを食べてしまったり、吸ってしまうこと(Cox et al. 2019)、そしてマイクロプラスチックが雨を通して都市に降り注いでいることがわかっています(Wright et al. 2020)。

微小なプラスチック粒子は、有毒な化学物質や有害な微生物を宿す可能性があり、一部の海洋生物に害を及ぼすことが知られています。

またプラスチックではありませんが、大気汚染によるさまざまな種類のナノ粒子が人間の心臓や脳に存在し、脳ガンと関連していることが他の研究で示されています(Lavigne et al. 2020)。

今回の研究で示されたように、人間の臓器などの組織に何が含まれているかがわかると、疫学調査を実施して人間の健康転帰(疾患・怪我などの治療における症状の経過や結果)を理解することが可能になります。

そして健康への潜在的なリスクを理解できるようになるというわけです。

つまり今回の研究は、人間の健康リスクを回避できる新しい技術になるかもしれないということです。

NICO Expedition https://flic.kr/p/29ReREA CC BY-NC 2.0

NICO Expedition https://flic.kr/p/29ReREA CC BY-NC 2.0

研究者たちは現在、臓器提供者(ドナー)の寿命期間中に蓄積したマイクロプラスチックを見つけるために組織を調べているとのこと。

提供される臓器は、臓器提供者のライフスタイル、食事、職業についての情報も一緒に提供されることが多いので、マイクロプラスチックにさらされる主な原因と理由を理解するのに役立つかもしれません。

プラスチックがいつ、どこで私たちの体内に吸収されているのか。そしてどれくらいのマイクロプラスチックが私たちの臓器にあり、どれくらいの健康被害を及ぼしているのか。

この先さらに研究が進んでいけば、これを知る日が近いかもしれません。

参考:The Guardian August 2020