33万粒
これが,1本の洗顔料チューブに含まれるプラスチックのマイクロビーズの数です(OTTAWA CITIZEN Aug 17 2014).
マイクロビーズとは,サイズが5マイクロから1ミリメートル程度の小さなプラスチックのビーズです(Elias 2017).マイクロプラスチックの1種です.
「スクラブ粒」として,洗顔料,歯磨き粉,ボディシャンプーなどパーソナルケア商品の洗浄力を高めるために使われます.もっともよく使われる材質はポリエチレン.
また化粧品に入っているキラキラのラメなどもマイクロビーズです(Fendall & Sewell 2009).
今日,化粧品のおよそ4万製品中の10%にポリエチレンが使用されています(Tanaka 2018).
洗顔料で見られるポリエチレン製のマイクロビーズの例.(a)から(d)は異なるブランドを示す.スケールバーは500マイクロメートル.Source: Tanaka & Takada (2016) Scientific Reports 6: 34351 (Creative Commons BY 4.0)
上図のように,マイクロビーズの形は様々で球状のものもあれば単に砕いたような形のものまであります.
マイクロビーズ入りの洗顔剤で顔を洗うと,使用されたマイクロビーズが排水溝を流れます.そして下水を流れ,下水処理場にたどり着きます.
メラニンスポンジで食器や流し(シンク)を掃除しても,それはマイクロプラスチックとして下水に流れていきます.
しかし,このようなマイクロビーズやマイクロプラスチックはサイズが非常に小さいので,一部は下水処理場を通り抜けて「浄化された水」と一緒に海に出ていってしまいます(Elias 2017).
テニスコート300個分
米国では,2015年の時点で,毎日8兆個のマイクロビーズが水圏に流れ込んでいたと推定されています(Rochman et al. 2015).
仮にマイクロビーズの直径を100マイクロメートルだとすると, 1日にアメリカから排出されるマイクロビーズを全部敷き詰めたらテニスコート300個以上になります(Rochman 2015).
EUでは,2012年の時点で最大4,360トンのマイクロビーズが使用されました(UNEP 2015).イギリス(UK)だけでも毎年680トンのマイクロビーズが使用されています(Green Alliance).
どうやったら商品にマイクロビーズが入っているかわかる?
マイクロビーズは,様々なプラスチック素材から作られます.
たとえばポリエチレン,ポリ乳酸 (PLA), ポリプロピレン,ポリスチレン,ポリエチレンテレフタレート(PET)などがあります.
ほとんどのマイクロビーズは,ポリエチレンかポリプロピレンでできています.
商品の成分表を見てください.ポリエチレン末やポリプロピレン末,コポリマーなどと表記されています.
危険な化学物質を運ぶマイクロビーズ
海に入ったマイクロビーズが恐ろしいのは汚染物質の運び手になることです.
マイクロプラスチックは,小さなスポンジのように海洋中に残留している多くの汚染物質を吸着します(Teuten et al. 2009, Engler 2012).
マイクロビーズは,動物プランクトンなどの食物網の底辺を支える小さな動物たちに誤食(誤飲)されることが,実験室で明らかになっています(Cole et al. 2013).
したがって汚染物質を吸着したマイクロビーズが動物プランクトンに食べられ,それを魚介類が食べ,私たちの食卓に上がってくる可能性もゼロではありません(Thompson 2015).
マイクロビーズを阻止できる処理場はごく僅か
マイクロビーズの高い除去率(98%—99%)を誇るどんなに高性能な排水処理場でも,100%ではないわけです.
毎日処理する水の量がものすごく多い場合は,わずか数パーセントの抜け出したマイクロビーズの量が,結果的にすごい量になります(Horton et al. 2017).
カリフォルニアで行われた研究では,排水処理場の浄水プロセスに125マイクロメートルのフィルターをかませることでマイクロプラスチックをほぼ完全に除去できたといいます(Carr et al. 2016).
しかし高性能な下水処理施設をもった国はごく僅かで,未だに多くの国では未処理の下水をそのまま川や海に垂れ流しているという実態があります.
世界183カ国・地域の排水処理能力を調べた研究では,平均所得の高い国ほど処理能力が高い傾向が見られましたが,中南米,サブサハラアフリカ,南アジアでは処理能力が最低レベルでした(Malik et al. 2015).
ただしいくら高性能でも,大雨が降ると日常の生活排水に加えて大量の雨水が下水に流れ込むため,排水処理場の処理能力が落ち大量のマイクロビーズが排水処理場を抜けてしまう問題を抱えています(UNEP and GRID-Arendal 2016).
なお海に捨てられる海洋プラスチックごみのうち,マイクロビーズの割合はおよそ1%です(Green Alliance).
割合としては少ないですが,全体の海洋プラスチックごみの量が年間800万トン以上であることを考えれば(Jambeck et al. 2015),その量は決して少ないものではありません.
各国ではじまるマイクロビーズ禁止法.対応遅い日本
米国では,オバマ元大統領がマイクロビーズを禁止する法案にサインし,2017年の7月からマイクロビーズ入りのケア商品の生産が終了しました.2018年7月からマイクロビーズ入り商品の販売も終了しました(U.S. Food & Drug).
台湾はアジアに先駆けて,マイクロビーズ入りのケア商品の販売を禁止する方針を決めました(NNA ASIA Aug 25 2016).2018年には輸入・生産を停止,2020年には販売を停止するようです.
EU諸国は2014年に化粧品へのマイクロプラスチックの使用を禁止.カナダは2015年にパーソナルケア製品中のマイクロビーズの使用を禁止,オーストラリアも2017年以降でパーソナルケア商品のマイクロプラスチックの使用を禁止です.
このように世界各国で国レベルでマイクロプラスチック(マイクロビーズ)への規制が始まっていますが,日本ではまだそのような動きはありません.企業レベルで自主的に対応を求めている程度です(International Pellet Watch March 2016).
花王がすでにマイクロビーズ入り商品の販売をやめ(KAO),資生堂が2018年からマイクロビーズ入り商品を販売しないと決めましたが(SHISEIDO),まだ国内で使っているブランドもあるようです.