海洋プラスチックごみが集積する5つのジャイア

マイクロプラスチックの分布図と太平洋ごみベルト

1950年以来,プラスチックの生産は爆発的に増えています.

1年間に製造されるプラスチックの量は3億2200万トンに達しました(2015年時点)(PlasticEurope). これは東京スカイツリーを約7,800個足し合わせた量に相当します(*地上本体鉄骨重量4,1000トンで計算).

毎年,世界中で捨てられるプラスチックごみの2%〜5%が海に漏れています.その量は年間400万〜1200万トンになります(Jambeck et al. 2015).ダンプカーいっぱいのプラスチックを1分毎に海に投棄するのと同じです.

浮くプラスチックと沈むプラスチック

海に浮かぶペットボトルとプラごみ 海に入ったプラスチックごみは,その種類によって浮くか沈みます.

ペットボトルのように海水より比重の大きいものは沈み,ペットボトルのキャップのように比重の小さいものは浮いて海の表層を漂います(Andrady 2017).

今日製造されているプラスチック製品の半分くらいは海水よりも比重が軽くて水に浮くと言われています(PlasticEurope 2015).

浮くプラスチックは,ゆっくりと海流に流され,広い外洋の「ある場所」に溜まっていきます.

ある場所とは,世界の大洋に5つある巨大なごみの集積場所のことです.

もっとも巨大なものは北太平洋にあります.

5つのジャイア

下の図をみてください.世界の大洋には,ぐるりと一周する大きな海流のループが5つあります.

亜熱帯域をぐるぐると循環しているので 「亜熱帯循環系」という名がついています.

マイクロプラスチックの分布図

世界の大洋を循環する5つの環流(ジャイア)とプラスチック濃度.色が濃いほどマイクロプラスチックの濃度が高い.5つの環流には,北太平洋環流(North Pacific gyre),南太平洋環流(South Pacific gyre),北大西洋環流(North Atlantic gyre),南大西洋環流(South Atlantic gyre),インド洋環流(Indian Ocean gyre)がある.Source: GIRD Arendal/Flickr (CC BY-NC-SA 2.0)

特に巨大な循環は北太平洋にありますが,南太平洋でも,大西洋でもインド洋でも,それぞれの大洋で海の流れがぐるぐると回っています.

まさに循環しています.英語でジャイア(Gyre)といいます.

海を漂流するプラスチックごみは,この海流の大きなループにつかまって,渦にまかれながら,次第にループの内側へと運ばれていきます.

ループの真ん中までやってきた海水は,最終的には出口をもとめて下に潜り込んでいきます.

およそ数百メートルの深層まで沈んでいきます.

しかしプラスチックごみの多くは海水よりも比重が軽いので,下まで潜り込まずに表面に留まります(van Sebille et al. 2015).

そのため時間が経つにつれ,これら5つの循環系には,それぞれ巨大なごみの集積所が形成されていきます(Law e tal. 2010, Law et al. 2014, Cózar et al. 2014, Eriksen et al. 2014, van Sebille et al. 2015).

グレートパシフィックごみパッチ

一番身近にある北太平洋に目を向けてみましょう.

北太平洋にある時計回りの大きな海流のループは,北太平洋環流(North Pacific Gyre)と呼ばれます.

この時計回りのループの西の端にある,とくに流れの強い部分が黒潮です.

日本や中国,韓国などの東アジアやインドネシアなどの東南アジアからでたプラスチックごみは,どこにいくのでしょうか?

下の図をみてください.

これは中国・上海の沖合あたり(黄色のアヒルちゃんが置いてある場所)で捨てられたごみが,どこに流されていくかをシュミレーションしているものです.

マイクロプラスチックの分布図

上海の沖合あたりで捨てられたごみが,どこに流されていくかのシュミレーション.Source: Plastic Draft (CC BY-NC-SA)

上海を出発したプラスチックごみは,北太平洋環流にのって東に運ばれ,しだいにカリフォルニアの沖合に集積していくのがわかると思います.

東アジアと東南アジアからでたごみは,黒潮にのって北大西洋に流れ込んでいくのです(Yamashita & Tanimura 2007).

このカリフォルニアの沖合にある巨大なごみの集積場所をグレートパシフィックごみパッチと呼びます(Moore et al. 2001).

ここではおびただしい量のプラスチックごみが見つかります.いわゆる「プラスチックごみのスープ」と言われる場所です.

また日本の南からカリフォルニアにかけて,ごみが帯状に分布しているエリアは太平洋ごみベルトと呼ばれます.

漂流するプラスチックごみ

他の場所にも目を向けてみましょう.

メキシコの沿岸で捨てられたごみも同じく北太平洋環流につかまります.

下の図をみてください.

マイクロプラスチックの分布図

メキシコ沖で捨てられたプラごみは,北太平洋環流を西に進み,黒潮にのって北上して,東に進み,グレートパシフィックごみパッチにやってくる.Source: Plastic Draft (CC BY-NC-SA)

メキシコをでた大部分のごみは,北太平洋環流にのって西に進みアジアへ向かいます.

その後,黒潮にのって北上して,結局はカリフォルニアの沖にあるグレートパシフィックごみパッチにたどり着きます.

インドからでたごみはどうでしょうか?

マイクロプラスチックの分布図

インドのムンバイあたりで捨てられたプラごみは,ベンガル湾やアフリカのマダガスカルのほうへと流れていく. Source: Plastic Draft (CC BY-NC-SA)

ムンバイあたりから捨てられたごみは,インド洋の循環につかまってマダガスカルの近くまで漂流します.

あるいは汚染がもっともひどい場所の1つであるベンガル湾のほうへと漂流していきます(Cozar et al. 2015, UNEP 2016).

また,大洋の環流をぐるぐると回っていたプラスチックごみが,数年間の間に大洋と大洋の間を移動して,別の循環系にやってくることもモデルの検証によってわかっています(UNEP 2016).

興味のある方は,このウェブサイト→『Plastic Draft』をみてください.

捨てられたごみが,どこに流されて溜まるかをシミュレーションできます.

好きな場所をタップすると,黄色のアヒルちゃんが置かれます.

アヒルの位置がごみを捨てた場所という意味です.

世界地図をスライドさせて東京の近くにアヒルちゃんを置くと,そこに捨てたごみが流されてカリフォルニアの沖合で高濃度に溜まっているのがわかりますよ.