プラスチックの製造は急増しており、それに伴い海に捨てられるプラスチックごみの量も増加しています(Jambeck et al. 2015)。
理論上、数千万トンのプラスチックごみが海の表層に浮いているはずです(UNEP & GRID-Arendal 2016)。
しかし、研究者が実際に調べて明らかになったプラスチックごみの量はもっとずっと少ないものでした。 亜熱帯循環のような海を漂うプラスチックごみが蓄積される場所を調査すると、予想される量よりもずっと少ないことが明らかとなっています(Cózar et al. 2014, Eriksen et al. 2014, van Sebille et al. 2015)。
実際には、予想していたプラスチック量の100分の1程度しか見つかっておらず、海に浮いているプラスチック量に増加傾向は見られません。
これには何か理由があるはずです。
スペインとアメリカの研究チームが行った数理コンピュータモデル研究によると、海に浮かぶプラスチックごみ量の経年変化は、光分解や熱酸化分解といったプラスチックの物理的な分解プロセスのみで説明することができません(Solé et al. 2017)。
そして、プラスチックを分解できる微生物の数が増加しているのではないか、と研究チームは考えています(Solé et al. 2017)。
進化した微生物がプラスチックを分解?
ある微生物が進化してプラスチックを分解するようになったという説はあり得ないことではないでしょう。
オランダの研究チームは、海に漂うプラスチックに付着する微生物は海中にいる他の微生物とは組成が大きく異なり、中には汚染物質を餌にするものもいると考えています(Zettler et al. 2013)。
しかし、北大西洋に漂うプラスチックに付着する微生物のDNAを調べた研究からは、プラスチックを分解する微生物は全く見当たりませんでした(Debroas et al. 2017)。
その理由はたぶん、我々人類がまだプラスチックを分解する微生物を十分に発見できていないからかもしれません。
というのも、まだ知られていない微生物の数は100万種以上存在するからです(Short Sharp Science 2008)。
オランダの研究チームは、微生物がプラスチックを代謝することまでは証明できていませんが、彼らは海を漂流するプラスチック量が上昇していない理由は、プラスチックの量と比例して増加できる生物学的な反応でしか説明がつかないと説明しています(Solé et al. 2017)。
もし物理的な分解プロセスだけが起こっているとすれば、海の表層のプラスチック量は右肩上がりになるだろうと彼らは説明します(Solé et al. 2017)。
しかし、失われたプラスチックについて、プラスチックが微生物に分解されることはあり得るかも知れませんが、それでも非常に長い年月がかかるはずです。
生物学的な要因は、なにも微生物による分解だけではありません。
海洋生物に輸送されるプラスチック
この消えたプラスチックの謎にはいくつもの理由が考えられています。
たとえば、漂流するプラスチックはそこに付着する生物(フジツボなど)の重みにより海底に沈んでいったのかもしれません。
またはマイクロプラスチックが調査船のプランクトンネットにかからないくらい小さく微細化してしまったことも考えられています。
もしくは、他の生命体に飲み込まれているか、海流によって予想していない場所へ運ばれている可能性も考えられます。 多くの海洋生物がプラスチックを体内に取り込んでは移動しています。
たとえば、動物プランクトンには昼は深層で過ごし、夜になると表層に移動する日周鉛直移動を示すものが多くいます(Lampert 1989)。
その移動距離は1日に数百メートルに及ぶことがあります。
動物プランクトンもプラスチックを餌と間違えて食べていることが知られていますが(Cole et al. 2013)、動物プランクトンがプラスチックを深層に運び、糞をしてプラスチックを深層で排せつすることは大いにあり得るでしょう。 そ
れにしても、プラスチックを飲み込んだ海洋動物への影響はまだまだ明らかになっていません。