少し前の話になりますが,スペインの研究チームが,はじめて世界の海に浮かぶごみの地図を発表しました(Cózar et al. 2014).
それは世界の海にある5つの巨大な亜熱帯循環の内側に,どのくらい漂流プラスチックが溜まっているかを調べたものでした.
世界の海にある5つの亜熱帯循環のうち,最もごみが溜まっているは北太平洋亜熱帯循環の内側です.
1988年にグレートパシフィックごみパッチ(太平洋ゴミベルト)として,世間に広く知られるようになりました.
それで研究チームは不思議な結果を得ました.
プラスチックの量が予想よりも遥かに少なかったのです.
プラスチックはどこにいったんだ?
プラスチックの生産量は1950年代からすごい勢いで増加しています.
プラスチックは基本的に生物分解されないため,過去に人類が作り出して捨てたプラスチックは焼却でもしないかぎり環境中に残っています.
それで海に流れ込んだプラスチックごみのうち,海水よりも軽くて水面に浮かぶプラスチックごみは漂流して5つの亜熱帯循環に捕らえられ,そこに留まっているだろうと研究者は考えていました.
毎年どのくらいのごみが海に流れ出ていくかはシュミレーションで分かっているので,どのくらいプラスチックが海の表層に溜まっているかも予想していました.
だいたい4500万トンくらいは海に浮いていると思っていました.
しかし研究チームが5つの亜熱帯循環を調べてわかったプラスチックの量は,予想よりも遥かに小さかったのです.44万トンくらいしかないのです.
「一体,プラスチックはどこにいったんだ!?」
プラスチックが行方不明になっています.
深海底でみつかるマイクロプラスチック
プラスチックは,確かにどこかに行っています.
深い方に行ったのか,それともあまりにも小さく微細化してしまったので,単純にプランクトンネットで捕れなかっただけなのか.
あるいは野生動物の体の中に?
その後間もなくイギリスの研究チームが,深海底の泥中から無視できない量のマイクロプラスチックが見つかったと発表します(Woodall et al. 2014).
かなり広範囲の深海底を調査しても,どこからもプラスチックのかけらや繊維がでてきたので,チームはこう結論づけます.
「プラスチックはどこに行ったって?明らかに深海底が1つの答えです」
まだわからない行方不明プラスチックの謎
深海は人類最後のフロンティアですが,このフロンティアにも人間の負の遺産がすでに蓄積しているのです.
しかし,どのくらいのプラスチックごみが深海底に溜まっているのか?
どうやって深海までたどり着いたのか?
「失われたプラスチック」については,わからないことだらけです.
毎年800万トンのプラスチックが海に入りこんでいます(Jambeck et al. 2015).たとえでいえば,ダンプカーいっぱいのプラスチックを1分毎に海に投入している感じです.
そしてまだプラスチックがどこにいっているのか,ちゃんとした答えはでていません.
どんなに身近にあったプラスチックも,見えなくなれば忘れ去られてしまいます.
まさに「去る人,日にうとし」です.