漁業は海洋ごみの主な発生源の1つです.
やむを得ず紛失した,あるいは捨てられた漁具が,海上で発生するごみの主な要因となっています.
漁業で使われる漁網やロープは,何らかの理由で紛失,あるいは遺棄されます.
趣味の釣りでも釣り糸が海中に投棄されます.
これらはゴーストネットと呼ばれ,幽霊のように海中や海底を漂い,無差別に海洋生物を絡まっていきます(Kühn et al. 2015, Gall and Thompson 2015).
漁業から発生する海洋ごみは10%
養殖業と趣味の釣りも含めると,漁業から発生するごみの量は海洋ごみ全体のおよそ10%と推定されています(Macfadyen et al. 2009, Green Alliance).
ただし場所によって大きく異なります.
たとえば,韓国で行われた調査では,ゴーストネットの占める割合が年間に発生する海洋ごみの半分から4分の3を占めていました(Jang et al. 2014).
外洋では,海洋ごみの50-90%がゴーストネットの場合もあります(Hammer et al. 2012).
急増するゴーストネット
過去数十年の間に漁業や漁場がますます広がり,それに伴いゴーストネットも急増しています.
世界でゴーストネットが最悪レベルで発生している場所は,オーストラリアの北に位置するアラフラ海やティモール海です(Wilcox et al. 2013).
下の図を見てください.黄色の丸が船から発生するごみの量を示しています.
オーストラリアの北側の海で,広範囲に色が濃くなっているのが分かると思います.
ここでは違法操業を含む漁船から漁網が大量に投棄・紛失されています(Wilcox et al. 2013).
そのため北オーストラリアの沿岸は,世界でも最もゴーストネットが多い場所の1つとなっており,その量は1キロメートルあたりに年間3トンにおよびます(Wilcox et al. 2013).
そして年間1万4千匹以上のウミガメの死因になっています(Wilcox et al. 2013).
漁具のほとんどはプラスチック製
漁業で使われるほとんど全ての漁網,ロープ,あるいは釣り糸は,プラスチックでできています.
常識的に考えて海中で微生物に分解されることはありません.
そのためゴーストネットは,運良くヒトに見つかって回収されない限り,半永久的に海中に残ることになります.
すでに海洋哺乳類,海鳥,ウミガメ,魚類など200種を超える海洋動物がゴーストネットをはじめとする海洋ごみに絡まっています(Kühn et al. 2015).