海のプラスチックごみは,やがて劣化して,マイクロプラスチックと呼ばれる微細なプラスチック片になります(Andrady 2017).
マイクロプラスチックは,水圏のあらゆるところに拡散しており,極域から赤道までどこにでも蓄積しています(Lusher et al. 2015, Ivar do Sul et al. 2013).
世界の海の表層には少なくとも5兆個のマイクロプラスチックが浮いており(Eriksen et al. 2014),インド洋の深海底には1平方キロメートルあたりに40億個のマイクロプラスチックファイバーが埋まっています(Woodall et al. 2014).
スポンジのように汚染物質を吸着?
マイクロプラスチックは小さなスポンジのように,海に残留する有害な化学物質を吸着します.
プラスチックそのものは疎水性が高い上に,マイクロプラスチックは表面に凹凸が多く,表面積が大きいため,疎水性の高い化学物質を吸着しやすい特徴があります(Mato et al. 2001, Browne et al. 2007,Endo et al. 2013).
そのためマイクロプラスチックは,化石燃料関連の汚染物質(多環式芳香族炭化水素PAHs),DDTのような有機塩素系殺虫剤,ポリ塩化ビフェニル(PCBs)などを含めた残留性有機汚染物質(POPs)を周りの海水から吸着します(Mato et al. 2001,Ogawa et al. 2009, Tueten et al. 2009).
残留性有機汚染物質(POPs)
いくつかのPOPsは非常に有害で,内分泌かく乱作用,発がん性,突然変異,免疫毒性などが知られています(Wright et al. 2017).
さらにマイクロプラスチックは,カドミウム,亜鉛,ニッケル,鉛といった重金属も吸着します(Holmes et al. 2012,Rochman et al. 2014).
マイクロプラスチックの表面にくっつくPOPsの濃度は,周辺の海水よりも最大100万倍も高くなることもあります(Mato et al. 2001).
中国の浜辺から採取された樹脂ペレットには高濃度のPAHsやDDTが検出されていますし(Avio et al. 2015),化粧品に含まれるマイクロプラスチックもPAHsやDDTを海水中から吸着します(Napper et al. 2015).
さらには,時間が経過して古くなったプラスチックのほうが高いPOPs濃度を示すため,マイクロプラスチックは海中にいる限り,周りの汚染物質を吸着し続けて,長い間それを保持していると考えられています(Frias et al. 2010).
高濃度に汚染物質を吸着したマイクロプラスチックは小さな動物に食べられ,汚染物質が生物の体内(主に脂肪組織)に蓄積します(Browne et al. 2013, Rochman et al. 2013, Avio et al. 2015,Besseling et al. 2013).
そして食物網に取り込まれると考えられています(Farrell & Nelson 2013, Setälä et al. 2014). そのため,マイクロプラスチックを危険廃棄物に認定するべきだと主張する研究者もいます(Eriksen 2015).
体内に乗り移るPOPs
実験では,マイクロプラスチックに吸着していた汚染物質は,海水中よりも恒温動物の体内のほうが,最大で30倍も脱着しやすいことがわかっています(Bakir et al. 2014).
したがって,ヒトを含む哺乳類にとって,マイクプラスチックが吸着した汚染物質が摂食を通して,体の組織に乗り移ることは起こり得ます(Wright et al. 2017).
もちろんマイクロプラスチックを食べたからといって,それが毒性をもたらすかどうかは,プラスチックと一緒に取り込んだPOPsの濃度や,POPsの取込,蓄積度合い,生物の体重に左右されます(Andrady 2017).
海中でマイクロプラスチックが吸着する汚染物質の割合は,他の物質(溶存有機炭素,黒色炭素, 生物)に比べて小さく,海洋動物がマイクロプラスチックを摂食しても,問題なさそうだという意見もあります(Koelmans et al. 2016).
しかしヒトが食べる海産物の中にもマイクロプラスチックが見つかっているため,マイクロプラスチックを経由してヒトがPOPsにどのくらい暴露されているのかについて,研究が急がれています.