空に飛ばした風船はどこかに落ちてきます
風船は,多くの人があまり考えたことのない海洋ごみかも知れません.
風船は,晴れの式典や結婚式などの特別なイベントでよく使われます.
そして意図的に(華やかに)空へと飛ばされます.
残念なことに,風船は空へ昇っていったら,また落ちてきます.
そのまま空でなくなることはありません.
木の枝や電線などに絡まったり,しぼんで下に落ちてきたり,あるいは破裂するまで上昇して,バラバラになって大地に落ちてきます(これが最悪です).
ヘリウムの入った風船が空へ放たれると,破裂するまで,およそ8km上空まで上昇します(Burchette 1989).
そして破裂すると細長い破片になります(Burchette 1989).
この風船の破片は,海洋動物に誤食されます.また風船にプラスチック製の紐がついている場合は,紐が海洋動物に絡まります.
クラゲに似ている風船ごみ
ウミガメは風船の破片を餌と間違えて食べていることが様々な場所から報告されています(Plotkin & Amos 1990, Stamper et al. 2009, Tohrinho et al. 2010).
ゴム風船の破片は,ウミガメにとってクラゲやイカに似ているのです(Schuyler et al. 2012).
たとえば,風船ごみの細長い破片は,全ての種のウミガメが食べている鉢クラゲ(Scyphomedusae)の触手に似ています(Burchette 1989, Mrosovsky et al. 2009,Houghton et al. 2006).
オーストラリアのクイーンズランドで行われたウミガメの調査では,ウミガメの胃から最も多く出てきた人工物がゴムでした(Schuyler et al. 2012).
そして調査した全てのウミガメから出てきた合計41個のゴムのうち,およそ8割に相当する32個のゴムが,ゴム風船の破片だったのです(Schuyler et al. 2012).
生分解プラスチックの風船ならすぐ分解される?
エコロジー風船として生分解性プラスチックでできた風船が売られています.
生分解プラスチックが分解するには,土壌中の微生物や温度が必要ですが(Kyrikou & Briassoulis 2007),環境の異なる海の中ではほとんど分解されません(Andrady 2015).
陸上で十分に太陽光の紫外線に当たり熱に曝されれば光分解・熱酸化分解が起きますが,海の中では光分解と熱酸化分解は気の遠くなるほど極めてゆっくりにしか進みません.
コケなどの付着物がつけば,さらに分解が遅くなります(Andrady 2015).
したがって海の中では普通のプラスチックよりも速く分解されるということはありません.
風船は空に飛ばすべきではない
大西洋中部の海岸では,2010年から2014年の間の5年間に,ボランティアによって約5000個の風船ごみが回収されています(NOAA Marine Debris Program 2017).
世界中で行われている海岸清掃のボランティア事業では,過去25年間の間に120万個の風船ごみが回収されました(Ocean Conservancy 2011).
ビーチで拾われる海洋ごみのおよそ1%は風船のごみです(Ocean Conservancy 2011,Schuyler et al. 2012).
全体の海洋ごみに占める割合は1%と小さいかも知れません.
しかし,ウミガメは風船ごみを好んで間違えて食べていることは事実です(Schuyler et al. 2012). 風船ごみが減るようにするにはどうしたらいいでしょうか?
次回の式典やイベントでは,風船の代わりになるものを選ぶことです.
もし風船を使った場合は適切に処分するべきです.もっとも大切なことは,わざと飛ばさないことです.
天然ゴムの風船は地球に優しいって聞いたけど?
たしかに天然ゴムは自然に分解されます.
さらに風船をパンパンに膨らませた後のゴムはのびきっており,膨らませる前よりも分解されやすいのも事実です(Andrady 1989).
しかしゴムが海の中で分解されるには長い時間が必要です.
ゴムは光分解と熱分解によって劣化しますが,海の中では光と熱による分解は極めてゆっくりにしか進みません(Andrady 1989).
海中ではゴムの分解に数年も要するため(Marine Conservation Society 2014),分解される前に海洋動物に食べられてしまうリスクが高くなります.
そもそも,ゴム風船には,安定剤や人工色素などの化学物質が添加されています.
天然ゴムとは言え,もはや天然ではありません.