マイクロプラスチックは、浅い海から暗闇の深海まで、海洋のどこにでも存在しています。
マイクロプラスチックは、海洋の生態系や海洋動物に悪影響があると考えられており、
できるだけ広範囲にわたって、マイクロプラスチックの分布や量をモニタリングしていくことが必要です。
しかしマイクロプラスチックの分析手法は、いろいろあるうえに複雑で、多くの研究者が手探りでより良い方法を検討しているところです。
この記事では、海洋で採取するマイクロプラスチックの調べ方について、一般に広く使われている手法をまとめてご紹介します。
一通り読めば、どのようにマイクロプラスチックを採取して分析し、データを公表するのか、研究者ではなくともわかると思いますよ。また自由研究の役にも立つでしょう。
マイクロプラスチックの採取・回収
マイクロプラスチックは、大ざっぱに別けると、(1)海の表面に浮いているもの、(2)海中を漂うもの、(3)海底の砂や堆積物に潜り込んでいるもの、(4)砂浜のマイクロプラスチック、そして(5)海洋生物の体中に入りこんだものがあります。
どこからマイクロプラスチックを採集するかで、採集に使う手法や道具も異なってきます。
(1)海表面に浮くマイクロプラスチック
海に浮かぶマイクロプラスチックは、ポリエチレンやポリプロピレン、また発泡スチロールの破片(ポリスチレン)が目立ちます。これらは比重が海水よりも小さため浮くからです。
海表面に浮かぶマイクロプラスチックの採取には、ニューストンネットとマンタネットが広く使用されます。
下の写真は、マンタネットの写真。
ネットの口(くち)の下半分が水没し、海表面をすくうようにマイクロプラスチックを採集します。
目合い(網目の大きさ)は330µm(マイクロメートル)程度で、いま世界のマイクロプラスチック研究では、使用するマンタネットやニューストンネットの目合いは330µmが標準となっています。
バケツでも浮いているマイクロプラスチックをとれなくもないですが、定量的にとるのが難しいのと、一度にほんのちょっとしか海水を集められないため、めちゃくちゃ効率が悪いです。
ネットを使用する前に、必ずネットの外側から海水をジャブジャブとかけ流し、内部にあるごみをよく洗い流します。
ネットを曳網するときは、ネットの口にろ水計(フローメーター)を取り付け、どのくらいの量の海水を濾過したのか計算できるようにしておきます。
ニューストンネットやマントネットで採取したマイクロプラスチックの試料は、次に、前処理の「篩」または「化学処理」に進んで処理していきます。
(2)海中のマイクロプラスチック
海中を漂っているマイクロプラスチックは、海中から水をくんで採取するか、プランクトンネットを使います。
水をくむには、ポンプを使うか、採水器を使います。
ポンプ
ポンプにも2パターンあり、(a) ポンプの取水口を船の舷や岸壁から下ろすか、(b) 船に備え付けられたポンプを使用して海水をくみ上げる方法があります。
ポンプでくみ上げた海水は、ステンレス製やナイロン製のメッシュの袋やフィルター(目合いが30µmや100µmなど)に濾過してマイクロプラスチックを採取します。
ポンプのいいところは、プランクトンネットでは採集が難しい、非常に小さなマイクロプラスチックも採取できること。
さらに常時、海水をくみ上げて、連続的にマイクロプラスチックを採集し続けることができます。
採水器
ニスキンボトルなどの採水器を使うと、ピンポイントに狙った深度でマイクロプラスチックの試料をとれます。
マイクロプラスチックの海中の密度はとても低いですから、一度にたくさんの海水をとったほうがいいので、大容量の採水器が適しています。
バケツでも海水をくむことが出来ますが、表面に浮いているマイクロプラスチックとの区別が出来なくなります。
プランクトンネット
プランクトンを採集するときと同じプランクトンネットを使います。
下の写真はボンゴネットの写真。
プランクトンを採集するときと同じ要領で斜めまたは鉛直方向に曳き、海中のマイクロプラスチックを採取します。
ポンプや採水器、プランクトンネットで採取したマイクロプラスチックの処理は、前処理の「篩」または「化学処理」に進みます。
(3)海底の堆積物・泥のマイクロプラスチック
ポリ塩化ビニル(PVC)やポリエチレンテレフタレート(PET)など、海水よりも比重の大きなプラスチックはただちに海底に沈みます。
海底の堆積物(たいせきぶつ)に含まれるマイクロプラスチックを採集するには、堆積物ごと採集する必要があります。
そのときに使われるのは、ボックスコアラーや、柱状のプッシュコアラーとマルチプルコアラーです。簡単に言うと「筒」です。
堆積物のコアを、層別に切り出してマイクロプラスチック数を調べ、さらに放射性核種で堆積物の地質年代を調べれば、マイクロプラスチックがいつの時代のものかを推定することができます。
堆積物コアをとるための筒はプラスチックでできているため、筒を堆積物に差し込むと時に内側のプラスチックが削れ、堆積物にマイクロプラスチックが人為的に混入します。
ですから堆積物コアのマイクロプラスチックを調べる前に、金属製のヘラ などを用いてコアの周囲1-2cmをそぎ落とし、プラスチックに触れていない内側の堆積物を使う必要があります。
しかし周囲をそぎ落とすということは、とても貴重なコア試料の大部分を失うことになります。特に深海底から採取したコアはとても貴重です。
そのためマイクロプラスチックの混入を心配する必要がないアルミ製の柱状コアラーも開発されています。
(4)砂浜のマイクロプラスチック
ビーチ、砂浜にもたくさんのマイクロプラスチックがあります。
まず正方形の枠を用意します。たとえば、50センチ×50センチの枠など。
そしてスコップを使って、深度5センチまで掘り、砂を集めます。
50センチ×50センチ×5センチなので、約0.013立方メートルの体積の砂を集めることが出来ます。
深さ5センチは、国連が組織する専門家会合で推奨されている深さです(GESAMP 2019)。
マイクロプラスチックの定義が、5mm以下よりも小さなプラスチック片なので、まず、砂を5mmの篩(ふるい)を使ってふるいます。
5mmの篩の上に残ったプラスチックは、目視で、ピンセットで取り出します。プラスチックかどうかわからない自信のないものも全部集めます。
取り出したマイクロプラスチックは、ガラス瓶や金属の容器にいれて保管します。
5mm以上のプラスチック片は、メソプラスチック(5mm〜5cm)として、マイクロプラスチックとは区別して扱います。
5mmの篩を抜けてしまった細かい砂については、次の「前処理の篩」にすすんで処理していきます。
(5)海洋生物の体中のマイクロプラスチック
釣りや市場で買ってきた魚、磯で採集した貝類など、生物の体内にあるマイクロプラスチックを調べるには、まず生物を解剖して、消化管(胃腸)を取り出しましょう。
生物が小さすぎて解剖出来ない場合は、そのまままるごと処理します。
取り出した消化管(あるいは、まるごと)は、「前処理の化学処理」に進んで処理します。
\採集方法についてもっと詳しく/
試料の前処理
上記方法で採集した試料には、マイクロプラスチック以外のもの、つまり夾雑物(きょうざつぶつ)がたくさんまじっています。
できるだけマイクロプラスチックだけを残していく作業をします。前処理と呼んでいます。
前処理は、大雑把に、(1)ふるい、(2)化学処理、(3)比重分離の3パターンがあります。
(1)篩(ふるい)
砂浜のマイクロプラスチックのところで少し解説しましたが、マイクロプラスチックの定義が5mm以下のプラスチック粒子のため、まずは5mmのふるいにかけて、大きな粒子を取り除きましょう。
5mmのメッシュの上に、プラスチック片があれば、ピンセットで取り出し、分析用に保管します。
砂浜の砂を5mmふるいを通過させた砂は、1mmや500µmのふるいさらに細かい砂を取り除きます。
しかし、砂浜の砂が濡れているとふるいの目にスタックしてしまいます。その場合は、砂を乾燥させてからふるいにかけるか、すっとばして(3)比重分離に進みます。
砂浜以外のサンプルで、見た目に5mm以上のものがわずかであれば、ふるいなど使わずに直接ピンセットで取り出します。あるいは、大きな粒子がなさそうでしたら、ふるいも使わずに、次の工程に進みます。
(2)化学処理(有機物の除去)
ネットで採集した試料や、生物の消化管内容物には、マイクロプラスチック以外に大量の有機物が含まれることが多いため、まずは有機物を除去します。
いろいろと方法はありますが、1番のオススメは、30%過酸化水素で常温で有機物を酸化させる方法です。
キレイなガラスビーカーに、乾燥させた試料をいれ、そこに30%過酸化水素を200ミリリットルほど加えます。
安全な場所において、1週間ほど放置し、有機物を酸化させます。
もし有機物が多すぎて、処理しきれていないようでしたら、さらに過酸化水素を追加して、数日様子を見ます。
超急ぎで有機物を取り除きたい!という場合は、フェントン法を使います。フェントン法は、過酸化水素(30%)に硫酸鉄(II)を混合して酸化させる方法です。
フェントン法では75度くらいまで加熱するのですが、マイクロプラスチックがダメージを受ける可能性もあるため、加熱せずに処理するほうがオススメです(フェントン法では加熱しなくとも、かなり発熱します)。
他には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、硝酸で処理する方法もありますが、強い酸・アルカリではマイクロプラスチックが壊れてしまうことが知られており、オススメではありません。
タンパク質分解酵素(プロテアーゼ)を使う方法もあります。こちらも穏やかに、有機物を分解できますのでオススメですが、酵素は値段が高いのが欠点です。
(3)比重分離
密度分離とも呼びます。簡単にいうと、マイクロプラスチックよりも比重が重たいけど堆積物や砂よりは軽い液体の中に試料を入れて、マイクロプラスチックとその他を分離する方法です。
マイクロプラスチックは全部浮いて、堆積物・砂は沈んだままになるため、浮いてきたものを集めるのです。
プラスチックの比重は、重たいポリ塩化ビニルでもだいたい1.4g/cm3ですから、それよりも重たい液体を使えばOK。
研究でよく使われるのが、ヨウ化ナトリウム(密度:〜1.8g/cm3)、塩化亜鉛(密度:〜1.8g/cm3)、ポリタングステン酸ナトリウム(密度:〜3.1 g/cm3)などです。
飽和塩水(密度:〜1.2g/cm3)を使う手もあります。お手軽に(安く、そこそこのレベルで)比重分離をしたい場合は、飽和塩水を使います。
先に述べた砂浜のマイクロプラスチックでは、5mm以下のふるいを通過した砂からマイクロプラスチックを回収するために、飽和塩水に砂を入れます。よくかき混ぜ、浮いてきた粒子を回収します。
ただし、飽和塩水で浮くプラスチックは、主にポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレンなど比重が小さなマイクロプラスチックだけです。その他の比重の大きなマイクロプラスチックは取り残してしまう可能性があります。
ですから、割り切ってしまう場合を除き、研究レベルでは、ヨウ化ナトリウム、塩化亜鉛、ポリタングステン酸ナトリウムなどが使われます。
ただ、塩化亜鉛は毒性が高い、ポリタングステン酸ナトリウムは高価すぎるため、やや高価ですが安全なヨウ化ナトリウムが利用されることが多いです。
使用済みのヨウ化ナトリウムを濾過して、乾燥させて粉末に戻し、再びリサイクルする手法も提案されています(Kedzeirski et al. 2017)。
比重分離には、ビーカーや栓付の漏斗(または分液漏斗)を使いますが、欠点が多くあります。
たとえば、ビーカーでは、上に集まったマイクロプラスチックを駒込ピペットで吸う方法がありますが、ガラス壁面にマイクロプラスチックが残りやすく、全部を回収するのにとても時間がかかる上に、ピペット内も毎回洗わないといけません。
栓付漏斗や分液漏斗では、沈んだ堆積物をあらかじめ除去してから、表面に浮いたマイクロプラスチックを回収できます。ですが目詰まりしやすく、1度に処理できる堆積物が限られます。砂など粒子が大きいとなおさらです。
そこで、上記の悩みを解決した、スライド式のガラス製分離器も開発されています(Nakajima et al. 2019)。おそらくこれが、最も比重分離が容易にできる装置の1つです。
さて、ここまで前処理についてお話しました。
海表面・海中から採取したマイクロプラスチック試料のうち、ネット試料では、先に(2)化学処理に進み、もし無機物系の夾雑物がたくさんあれば(3)比重分離に進みます。もしなければ、比重分離はせずに、後述する拾い出しに進みます。
海水を濾過して得られた試料も上記と同様です。
堆積物の試料では、先に(3)比重分離をして、泥などを取り除いてから(2)化学処理して有機物を除去することが多いですが、このあたりの研究者のこのみで異なり、さきに(2)化学処理をやってしまう人もいます。
というのも、マイクロプラスチックのまわりに有機物がまとわりついていると、なかなか堆積物の泥の中かから出てきてくれない、っていうこともあるからです。
\前処理についてもっと詳しく/
マイクロプラスチックの拾い出し
前処理が終わったら、いよいよマイクロプラスチックの拾い出しです。
拾い出し作業が必要なのは、100µmよりも大きなマイクロプラスチックを対象する場合です。
100µmよりも小さな粒子をピンセットで取り出すのは困難ですので、いさぎよく諦めて、後述する顕微FTIRを使用しましょう。
ここでは100µmよりも大きな粒子を対象する場合の話をします。
前処理が終わっても、マイクロプラスチック以外の粒子はかなり残っているため、一粒ずつ、ピンセットで拾い出していきます。
サンプルをガラスシャーレなどの透明なガラス容器にいれ、実体顕微鏡を使って、マイクロプラスチックとマイクロプラスチックらしき粒子を拾い出していきます。
色がカラフルなマイクロプラスチックやレジンペレットなど形が特徴的なマイクロプラスチックはわかりやすく、肉眼でも容易に識別できます。
シャーレの下に白色や黒色の紙を敷くことで見落としが少なくなりますよ。
マイクロプラスチックの画像処理
拾い出したマイクロプラスチック(+マイクロプラスチックらしき粒子)は、次に述べる材質分析の前に、写真をとっておきましょう。
写真(画像)を取り、その大きさ(長辺・短辺・面積)と形状(繊維状、破片状など)を記録します。
材質分析の前に写真撮影を行う理由は、次にも述べますが、分析によって形が変形したり粉々に潰れてしまうことがよくあるからです。あとなくなってしまったり。。
顕微鏡に取り付けたデジタルカメラを使って、マイクロプラスチックとマイクロプラスチックらしき粒子を撮影し、これを画像処理ソフトを使って、大きさを測定します。
フリーで使える画像解析ソフト(ImageJなど)でも、粒子の平均粒径、最大・最小サイズ、面積を測定することができますよ。
ここで述べる画像処理は、100µm以上の大きさの粒子にのみに使います。
それよりも小さな粒子では、顕微FTIRを使うことになるので、顕微FTIRについている画像処理機能を使ってきます。
マイクロプラスチックの材質分析
実は、マイクロプラスチックだと思って拾い出したのに、材質を調べたらプラスチックではなかった、ということはよくあります。
そのため材質を調べていく必要があります。
材質分析とは、その粒子が、ポリエチレンでした、ポリプロピレンでした、という風に、ポリマーの材質まで調べていくことです。
そうすることではじめて、拾い出した粒子がプラスチックだったのか、そうでなかったかがわかります。
見た目に明らかにプラスチックだとわかる粒子も多いですが、材質を知ることで、その起源を推定する上でサイエンス上とても重要な情報になります。
マイクロプラスチックの材質を調べる手法は様々にありますが、いま最も広く使われている方法は、フーリエ変換赤外分光法(Fourier Transform Infrared Spectroscopy)です。略して、FTIRと呼びます。
FTIRでは、試料に赤外光を照射し、透過または反射した吸収量を測定することで、分子の構造や官能基の情報を知ることができます。
FTIR以外には、ラマン分光やハイパースペクトルイメージング、熱分析を用いた材質判別手法がありますが、ここでは割愛します。
さて、粒子のサイズが100µm以上の粒子では「ATR-FTIR」を使い、100µm以下の粒子では「顕微FTIR」を使います。
あくまで目安ではありますが、だいたいそのくらいのサイズで、ATRーFTIRか顕微FTIRかを使い分けていきます。
以下に詳しく示します。
(1)ATR-FTIR
ピンセットでつまめるサイズのマイクロプラスチックの分析にはATR-FTIRがよく使われます。
ATR法では、赤外光が内部反射(全反射)するプリズムの反射面にマイクロプラスチックをのせて、マイクロプラスチックをプリズムに押し当て密着させて分析します。
そのため分厚い試料やいびつな形の試料の分析もOKです。プリズムには主にダイヤモンドが使用されます。
1回の分析、つまり1粒の分析には、およそ20秒かかります。
100µm以上の粒子を測定できるとは言え、このサイズの粒子をピンセットでつまむには熟練した技がいります。
そのためATR-FTIRで初心者が分析できるのは、500µm以上だと思っておいた方がいいでしょう。
ちなみにATR−FTIRでは、試料が押しつぶされてしまうので、マイクロプラスチックでは粉々になってしまうモノが多いです。
そのため、ATR-FTIRで分析する前に、前述したように画像撮影を行っておくのが良いです。
(2)顕微FTIR
ピンセットでつまめないレベル、あるいは肉眼ではもはや見えないレベルのマイクロプラスチックの材質分析には、顕微FTIRを使用します。
顕微FTIRでは、試料をフィルター上にのせて、フィルターの上の粒子を、顕微鏡の映像で確認しながら、その材質を調べていくことが出来ます。
ただし、小っさいマイクロプラスチックがフィルターの上のどこにあるかを見極めることはほぼ不可能なので、基本的にはフィルターの上を全部スキャンしていきます。
つまりスキャンするためにマッピング測定(イメージング測定)が必要になります。
試料をのせるフィルターが金属製(ステンレスや金コーティング)なら、反射モードで測定します。そうでなければ、透過モードで測定を行います。
ちなみに顕微FTIRの反射・透過モードで測定できるマイクロプラスチックの下限サイズは、だいたい10−20µmです。
もっと小さいのが見たいときは顕微FTIRのATRを使用します。その場合、サイズ下限はだいたい数マイクロです。
数マイクロよりももっと小さい、1マイクロ位まで見たいんだ!というときは、ラマン顕微鏡を使うことになります。
なお、顕微FTIRでフィルター上をマッピングするには、検出部1つだとスキャンに時間がかかり、限られたエリアしか分析ができません。
そのため、マイクロプラスチックの分析では顕微FTIRに1次元配置(リニアアレイ)や2次元配置(フォーカルプレーンアレイ、FPA)の検出素子が使われることが多いです。
マッピング測定が終わり、マイクロプラスチックが画像として認識されます。
あとは付属されている画像処理機能を使って、マイクロプラスチックの数や大きさ、面積といった情報を取り出します。
顕微FTIRでは、だいたい分析にどのくらい時間がかかるのでしょうか?
サーモフィッシャーサイエンティフィック社の顕微FTIR(Nicolet iN10MX)の超高速マッピングで、10マイクロくらいのマイクロプラスチックをターゲットにした場合、1センチ×1センチの面積をスキャンして分析するのに12時間程度かかります。
最近、アジレントから発表されたLDIRでは顕微FTIRよりもさらに高速スキャンが可能になったようです。そちらも注目です。
\その他の材質分析手法をもっと詳しく!/
マイクロプラスチックの定量手法
ここまでのプロセスで、調べた粒子の材質がわかるようになりました。
調べた粒子がプラスチックだったら、それをマイクロプラスチックとして数えていきます。
ネット試料や水試料では、水の体積当たりの個数で示されます(粒子/m^3)。
ATR-FTIRでマイクロプラスチックだとわかった粒子を集めておき、あとで重さ(mg)を測れば、水の体積あたりの重さで示すことも出来ます(mg/m^3)。
またマンタネットやニューストンネットで、海表面のマイクロプラスチックを調べたときは、ネットが曳いた海面の面積(km^2)あたりで示すことも多いです(粒子/km^2)。
では、堆積物のマイクロプラスチックではどうでしょうか?
堆積物では、堆積物を乾燥させた重さ(g)あたりのマイクロプラスチックの個数(粒子/g DW)、あるいはマイクロプラスチックの重さ(mg/g DW)で示されるのが最近の主流です。DWは乾燥重量(Dry Weight)の意味です。
砂浜のマイクロプラスチックだったら?
砂浜では、深さが5センチ掘ると統一されているので、砂浜の面積あたりの個数や重さで示されることが多いですね(個数/km^2、g/km^2など)。
生物の体内のマイクロプラスチックだったら?
生物の数を数えておき、生物1匹あたりの個数や重さで示されます(粒子/匹、g/匹など)。
じゃあ、画像解析で大きさや面積を測った理由は?
大きさを測ることで、マイクロプラスチックのサイズ分布を知ることができます。
さらに面積に高さを乗じて、マイクロプラスチックの体積を計算し、それにプラスチックの比重(ポリエチレンなら0.98 g/cm^3とか)を乗じて、マイクロプラスチックの重さを計算から推定するというワザもありますよ。
マイクロプラスチック分析の注意点
マイクロプラスチックの採取、前処理、分析、どのプロセスにおいても、可能な限り「プラスチックフリー」な状態を確保する必要があります。
よく使われるプラスチック製品を排除して、使用する道具や試料を保存する容器は、金属・ガラス・シリコーンといった別の道具に置き換えます。
特に容器には気をつけましょう。
フッ素樹脂のような環境中からはほとんど検出されることのないプラスチックなら利用可です。
たとえば、洗びん(スクィーズボトル)は、研究の必需品ですが、ポリプロピレン製は避けてフッ素樹脂のタイプを利用します。
プランクトンネットやニューストンネットのメッシュはナイロンですが、これは他に代用品がないので、そういう場合は利用はかまいません。
その場合は、機材に使っているプラスチックの材質を把握しておき、もしかしたらその素材の粒子数だけ、過大に評価している可能性を心にとめておけばOKです。
マイクロプラスチックには「繊維」タイプのものもたくさんあります。ですから、衣服からの繊維の混入には気をつけます。
分析中は木綿100%の白衣を着用するのはもちろんですが、空気中に浮遊する繊維状のマイクロプラスチックが混入するリスクにも注意を払います。
実験室での操作は、可能な限りラミナーフローのクリーンベンチで行います。また、蓋を開けて水をいれたガラスシャーレなどのブランクを用意しておきき、採取・前処理・分析のそれぞれのプロセスで混入のチェックが必要になります。
さらに、前処理や分析のプロセスでは、マイクロプラスチックの混入リクスよりも、マイクロプラスチックを紛失するリスクのほうがずっと大きいです。
たとえば、ピンセットで拾い出したマイクロプラスチックをプラスチックの容器にいれようものなら、静電気で微小なマイクロプラスチックがどこかに行ってしまうことがあります。
ですから、前処理と分析では、極力プラスチック製品を排除することが重要です。
まとめ
いかがでしたか?
ここに示した方法は、世界中で行われているマイクロプラスチック分析手法のうち、ほんの一部の方法だけです。
しかしそれでも、マイクロプラスチックの分析は、かなり複雑で、実はすごいめんどくさい、ということに気がついたかも知れません。
マイクロプラスチックのモニタリングの重要性は国際的に増しているため、既存の計測手法の改良やマイクロプラスチックを同定する時間と労力を軽減する新しい手法の開発がどんどん進んでいます。
さらに、1µmよりも小さなナノプラスチックを海洋から検出して定量する手法の開発がとても望まれています。
\もっと詳しく!/
マイクロプラスチックの分析方法についてさらに知りたい方に。
こちらの総説では、海洋マイクロプラスチックの採取から分析まで、その手法が詳細に書かれています。