英の海域に生息する海洋哺乳類。その多くがマイクロプラスチックを摂取している可能性が高いことが、最新の調査でわかりました(Nelm et al. 2019)。
座礁した50頭の海洋哺乳類を調査
プリマス海洋研究所(以下PML)は、沿岸に座礁したイルカ、アザラシ、ピグミー・マッコウクジラなど50頭・10種の海洋哺乳類について、その消化管の内容物を調査しました。 その内訳はクジラ類(43頭 / 8種)、ひれ足類(7頭 / 2種)。 これらはいずれも感染による病気や、外傷(漁網での混獲や船舶との接触、バンドウイルカの攻撃など)を受けて死亡していたものです。
こうした調査は、同種の野生生物がどのくらいのマイクロプラスチックを摂取しているのか、包括的に分析する上での貴重なデータになります。
50頭全てからマイクロプラスチック
分析の結果、これら全ての生物から平均5.5個のマイクロプラスチックが検出されました。また、その84%は繊維状のもので、大部分(60%)はナイロンだったことがわかりました。 おそらく、釣り糸や漁網、衣類の極細繊維、歯ブラシなどが発生源と考えられます。
そのほかポリエチレンテレフタレート(PET)やポリエステルも多く見つかり、それぞれ2番目に多い10%を占めています。
海洋哺乳類は食物連鎖の上位に位置します。こうしたマイクロプラスチックを食べた魚を捕食することで、自らも間接的に摂取してしまうのです。 研究グループのNelm氏によると、「一度に見つかるマイクロプラスチック数が少なかったとしても、その影響が小さいとは限らない」と言います。
なぜなら、海洋生物は慢性的にマイクロプラスチックを摂取していて、それに含まれる化学物質は体内に蓄積・濃縮されていくからです。 また、マイクロプラスチックが体内を通る際、腸壁に物理的な損傷を及ぼす可能性もあります。慢性的に摂取することで、体内に繰り返し傷を負うことも考えられます。
ただ、現時点ではマイクロプラスチックを摂取することで何が起こるのか、はっきりとわかっていません。
汚染物質の影響を受けやすい海洋哺乳類
イルカやアザラシは寿命が長いため、海洋生態系の健全性を図る良い指標になります。
一方で、食物連鎖の上位にいるため汚染物質の濃縮や蓄積による影響を受けやすい種でもあります。
例えば、プラスチックに含まれるPCB(ポリ塩化ビフェニル)といった有害な化学物質や、マイクロプラスチックに付着している汚染物質が海洋哺乳類の体内に蓄積していくのです。 時にはマイクロプラスチックがウイルスやバクテリアを媒介することもあり、感染の危険も高まります。 今回の調査でも、外傷が原因で死亡した個体よりも、感染症で死亡した個体の方が若干多くのマイクロプラスチックを摂取していました(Nelm et al. 2019)。
海洋哺乳類はプラスチックを含め様々なものを食べていますが、いつか臨界点に達し、健康が犯されるだろうとNelm氏は指摘します。
今回の調査でマイクロプラスチック摂食のベースライン(現状把握)を得ることが出来たので、さらなる追跡調査を行うことで、今後のマイクロプラスチック量の変化に彼らがどう適応するのか、または適応できないのかモニタリングできると考えています。
海はマイクロプラスチックのスープ
Lindeque氏(PML 海洋プラスチック研究グループ)は、動物プランクトンから魚の幼生、カメ、そして今や海洋哺乳類まであらゆる食物連鎖のレベルでマイクロプラスチックを発見してきました。
同氏は「海はマイクロプラスチックのスープで、状況は悪くなる一方。全ての海洋生物がプラスチックに晒され、自然環境の中で摂取している」と述べます(The Guardian Jan 2019)。
これ以上海のプラスチックごみを増やさない。強い意識を持って、私たちはこの問題に向き合わなくてはなりません。