Photo Above: NOAA’s National Ocean Service, CC BY 2.0
海洋プラスチック汚染といえば、浅い海や外洋の表面を漂うプラスチックごみを想像するかもしれません。それもその通りで、これまで海洋のプラスチックごみの研究は、浅い海や海の表面に浮いているものが主なターゲットだったからです。
でも、海の表面から下については、ほとんど調査が進んでいません。
我々人類は2015年までに83億トンのプラスチックを作り出し、そのうち79%のプラスチックが埋立地または自然環境中に堆積していると推定されています(Geyer et al. 2017)。
ところが不思議なことが起きています。プラスチックは絶えず海へ流入しているにも関わらず、その割に海の表面に浮いているプラスチックの量は増えていないのです。ではどこにいったのでしょうか。
2017年に行われたシミュレーションの結果から、1950年からこれまでの間に海に流入したプラスチックの99.8%が海面下に沈んでいる可能性が高いことがわかってきました(Koelmans et al. 2017)。
実際に、水柱や底生生物、深海底の堆積物中からマイクロプラスチックが見つかりはじめています。2015年に行われた北大西洋と北極海の深海堆積物の調査では、今まで報告された中でもっとも高い濃度のマイクロプラスチックが検出されました(Bergmann et al. 2017)。
さらに最近、スコットランドの研究チームは、深海生物がここ最近にプラスチックによって汚染されたわけではなく、もっと古い時代からプラスチックによって汚染されていたことを発表しました(Courtene-Jones et al. 2018)。
彼らは、大西洋の北東に位置するロッコールトラフで40年も前から継続的に収集されてきた深海の底生動物、クモヒトデやヒトデの標本を調べて、体内にあるマイクロプラスチックを調べました。
その結果、40年という全体の期間を通して、クモヒトデやヒトデなどの標本中に含まれるマイクロプラスチックの汚染レベルはほぼ一定であることがわかったのです(Courtene-Jones et al. 2018)。
普通、プラスチックは増えているんだから、体内のマイクロプラスチックも増えていると想像するかもしれません。おそらくマイクロプラスチックを体内に取り込んでも、同時に体から排出もしていたのでしょう。
しかし、この結果は、深海生物へのマイクロプラスチック汚染が1976年よりも前から始まっていたことを示しています。一方で、マイクロプラスチックが深海生物にどんな影響を与えるのかその実態はほとんどわかっていませんし、そういった研究もまだほとんどありません。
数少ない深海生物への影響をみた研究の1つに、冷水性の深海サンゴを対象にしたものがあります。 マイクロプラスチックを摂取した深海サンゴでは、骨格形成が鈍くなることがわかりました。
また大きなプラスチックごみが覆い被されば、やはり深海サンゴは餌をとることが出来なるため成長速度が遅くなります(Chapron et al. 2018)。
マイクロプラスチックはカニや二枚貝、魚類、動物プランクトンなど、様々な海洋生物の体内から見つかっています。今後、マイクロプラスチックを取り込む深海生物の研究も増えてくるでしょう。
しかし、マイクロプラスチックを食べてしまうことがどのような影響を及ぼしているのかについてはほとんど研究がなく、特に深海生物についてはほとんど実態がわかっていません。