海洋プラスチックごみによる「絡まり」は,日々,海洋動物の命を奪っています.
誰かが紛失した(または故意に捨てた)釣り糸や漁網,ビール缶をまとめるリング包装などに動物が絡まります.
絡まりによる被害を受けた海洋動物は,クジラ,海鳥,ウミガメ,アザラシ,イルカ,ジュゴン,サメ,大型の魚,サンゴ...数え上げるときりがありません.
最悪な絡まりの被害を引き起こすゴーストネット
すでに絡まりの報告は3万件を超えており,その種は344種類を超えています(Gall and Thompson 2015, Kühn et al. 2015).
いったん絡まると数日から長くて何十年(!)もの間,動物に絡み続けます.
そして溺れ,餓死,締め付け,傷口からの感染症を引き起こし,あるいは動けない間に捕食者による攻撃を受け,即死またはゆっくりと苦しみながら死んでいきます(Laist 1997, Ceccarelli 2009, Gilardi et al. 2010).
海に捨てられた漁網は,それがやむを得ない事情による紛失であれ,故意による投棄であれ,海に捨てられた漁網はゴーストネットと呼ばれます.
誰も操作していないのに幽霊のように海中を漂い,魚を含む海洋動物を絡め続けているため,ゴーストネットと呼ばれます.
ほとんどすべての漁網はプラスチックでできています.
プラスチック製の漁網は,軽くて浮力があり,耐久性があり,強度が強く長持ちするようできています.
同時に,絡まってしまった動物にとって脱出を困難にする要因になっています.
年間にどのくらいのゴーストネットが捨てられているか
世界の海で,年間におよそどのくらいの漁具が紛失しているか,まだ正確な推定はありません.
北オーストラリアの沿岸は,世界でも最もゴーストネットが多い場所の1つとして知られており,その量は1キロメートルあたりに年間3トンにおよびます(Wilcox et al. 2013).
主な原因は,オーストラリアの北に位置するアラフラ海やティモール海で操業している漁船(違法操業を含む)による漁網の投棄・紛失です.
また北ハワイでは,毎年52トン以上のゴーストネットが生み出されています(Gilardi et al. 2010).
ゴーストネットは,海洋に投棄されるごみのうち,体積換算で10%以下だろうと考えられていますが(Macfayden et al. 2009),海洋動物に与える被害は尋常ではありません.
ゴーストネットに絡まるクジラ、アザラシ、ウミガメ
いくつか例をあげましょう.たとえば北大西洋のクジラでは,1970年から2009年の間(大部分は1990年以降)に300頭以上の大型クジラが絡まりによって死亡しています(van Der Hoop et al. 2012).
米国のメイン湾でクジラの傷を調べた研究では,調査したザトウクジラの約5割が漁具による絡まりを経験していたと報告しています(Robbins & Mattila 2004).
大人のクジラよりも子供のほうがゴーストネットに絡まってしまう確率が高いようで,生存率の減少に拍車をかけています(Cassoff et al. 2011).
好奇心旺盛な子供が特に被害に遭う
アザラシやアシカなどでは,漁網や釣り糸が首や身体に絡まってしまい,餌を探しに行く能力が奪われ,絞殺や餓死にいたります.
一度絡まると苦しくもがき動くため,ますます絡まっていきます.
子供のアザラシやアシカほど好奇心が強いため,ゴーストネットで遊んでしまい悲惨な結果を招いています(Laist 1997).
また子育て中の母親がゴーストネットに絡まってしまうと,もう子供のもとに戻ることが出来ません.
北オーストラリアでは,2005年から2012年の間に8690個の漁網が回収されており,漁網に絡まるウミガメの数は1年間に最大で14,600頭と推定されています(Wilcox et al. 2015).
さらにゴーストネットは,漁師が獲りたい特定の魚種も含めて,あらゆる動物を絡め取ってしまいます.
ゴーストネットによる搾取と漁師による漁獲が相まって,ある特定の種の個体群に負の影響を及ぼす可能性が指摘されています.