シンガポール国立大学(NUS)の海洋科学者チームは、シンガポールの沿岸地域で集めたマイクロプラスチック表面から有毒な細菌を発見しました。
細菌の中にはサンゴの白化現象を引き起こすものや、人の感染症の原因になるものも含まれてました。
そのほか、汚染物質を分解する可能性のある細菌の付着も同時に確認しました(Curren et al. 2018)。
熱帯地域沿岸での初のマイクロプラスチック調査
現在、海には1億5000万トン以上のプラスチックがあると言われています。
海水中のマイクロプラスチックは、陸上のものよりも分解にはるかに長い時間がかかります。海水に含まれる塩分や低い水温が分解を遅くしているからです。
その結果、マイクロプラスチックには小さな生物が住み着きます。
海にはたくさんのマイクロプラスチックがあるにもかかわらず、熱帯地域の沿岸沿いについてはまだ詳しく調査されていません。
そこで、NUS熱帯海洋科学研究所(TMSI)は、シンガポールの沿岸地域から集めたマイクロプラスチックを調査。付着した細菌群集の研究に着手しました。
マイクロプラスチックに住む多様な細菌群集
2018年4月から3ヶ月間、研究チームはシンガポールの3つのビーチ(Lazarus島、Sembewangビーチ、Changiビーチ)から275個のマイクロプラスチックを採取・調査を行いました。
その結果、全てのマイクロプラスチックから400種類以上の細菌を検出。
プラスチックを分解できる細菌(エリスロバクター属)や、流出した油を浄化するために使用されてきた細菌(シュードモナス属)などが含まれていました。
こういった細菌の発見は、自然にやさしい代替素材の開発につながる可能性があります。
海のプラごみが増大していく中で、従来のプラスチックとは違う新しい素材を使うことで、プラスチック汚染や炭化水素のような有毒汚染物質を軽減できるかもしれないからです。
一方でこれとは対照的に、サンゴの白化や病気を引き起こす細菌(フォトバクテリウム・ローゼンベルギイ)も見つかりました。
シンガポールの南の海峡には複数のサンゴ礁が形成されており、そこには多種多様な生物が共存しています。
こういった細菌が増殖し、蓄積していけば、サンゴ礁に大きなダメージを与える危険性があります。
研究チームはまた、ヒトの感染症の主な原因である海洋性ビブリオ、胃腸炎を引き起こすアルコバクターも確認しました。
これら細菌が付着したマイクロプラスチックは、人々が立ち入りやすい場所やレクリエーションによく利用される地域から採取したもの。
「病気の拡大を防ぐためにも、どういったところに病原菌が分布しているのか特定することが重要」と研究チームのLeong氏は述べています。
細菌の起源を特定するこれからの研究
この研究によって、マイクロプラスチックは有毒な種類を含む多くの細菌の住処になることが証明されました。
NUS研究チームは、マイクロプラスチックによって運ばれる細菌の起源を調査するため、さらなる研究を行っています。
生物の多様性を脅かす非在来種。その特定を行うことで、海洋プラスチック汚染による喫緊の問題が明らかになっていきます(phys.org Feb 2019)。