ごみ問題について考えるとき、レジ袋やペットボトルなどの使い捨てプラスチックをはじめ、「使い捨て」を減らして、ごみを減らすことが、地球環境のことを考えるならベストな方法です。
じゃあ、「生分解性」ならどうなの?とよく聞かれます。
例えば、生分解性プラスチック。
生分解性のプラスチックなら、土、海の中で分解できると思っている人が多いです。
生分解性のプラスチック包装・容器には、「生分解性」または「堆肥化可能」と表記されているものがあります。
ところが実際は、土や海の中で分解できるタイプと、まったく分解できないタイプ、2つの生分解性プラスチックが存在します。
そして、いま、市場に出回っているほとんどの生分解性プラスチックが後者のタイプ。
生分解性とは、特別な条件下でのみ分解されることを意味します。
消費者だけでけではなく、多くの学者もけっこう混乱して、生分解性プラスチックについて間違えて認識していることすらあります。
さらに「生分解性」のものはプラスチックに限らず、紙やサトウキビの繊維から作られるバイオマス素材もあります。
スーパーの商品棚やテイクアウトのカップや容器で見かけることのある、4種類のタイプの「生分解性」素材について、その実際をみてみましょう。
トウモロコシ由来の生分解性プラスチック
いま市場に出回っているほとんどの生分解性プラスチックは、このトウモロコシからできたプラスチックです。
この生分解性プラスチックはポリ乳酸(PLA)という名前で、トウモロコシからとるデンプンから作られます。
具体的には、デンプンから単糖を取り出し、乳酸発酵させて乳酸を取りだし、これを重合してポリ乳酸を作ります。
見た目は、石油から作られたプラスチックにそっくりです。
ボトル、使い捨てのフォークやスプーン、プラスチックのフィルム、食料品の袋など様々な用途にに使われています。
通常はトウモロコシから作られますが、ビート、キャッサバ、サトウキビなど他の植物からも作ることができます。
ポリ乳酸のラベルには、しばしば「堆肥化可能」とかかれています。
でも、だからといって自宅の庭に埋めればいいってものではありません。
ポリ乳酸を分解するには、まず自治体にある堆肥化施設に送らないといけなんです。
ポリ乳酸を堆肥化するときにはいろんな条件がありますが、特に高熱(60度以上)と適切な湿気(60%以上)を必要とします。
そのため裏庭の土の中や、ましては海中で分解することはありません。海の中で60度以上なんて、深海の熱水噴出口の付近くらいです。
裏庭の土に埋めでも分解しませんから、ポリ乳酸のごみが埋め立て地に運ばれた場合は、極めて長い時間、そこにあるでしょう。
ポリ乳酸は、透明性の高いバイオマスプラスチックとして有名で、ペットボトルの材質とも見た目が似ています。
普通の(石油由来の)ペットボトルは、PETとして知られるプラスチックが使用され、積極的にリサイクルされています。
ややこしいことに、ポリ乳酸はリサイクルに回される他のプラスチックと見た目が似ているんです。
PETボトルのリサイクルに、紛らわしいポリ乳酸のボトルが混入すると、異物の混入となり、リサイクルの流れを汚染してしまいます。
ポリ乳酸は、ポリ乳酸だけ集めればリサイクル可能です。しかし、ポリ乳酸の市場は極めて小さいため、ポリ乳酸のためのリサイクル施設はほぼないに等しいのが現状です。
現状は、燃えるゴミに捨てるしかないでしょう。
ポリ乳酸の焼却は選択肢のひとつです。なぜならポリ乳酸を焼却して発生する二酸化炭素は、もともと植物が吸い込んだ二酸化炭素なので、実質的に大気中の二酸化炭素を増やすことにはなりません(カーボンニュートラルといいます)。
石油から作るプラスチックを燃やすと二酸化炭素が大気中に増えて温暖化の原因となりますが、ポリ乳酸ならもやしても温暖化を(理論上は)心配することはないということです。
ただ、ポリ乳酸を埋め立て地に入れてしまうと、二酸化炭素よりも温室効果を促進するメタンガスを出すことは知られています。
ごみが環境中に漏れ出さないことを前提にしながらポリ乳酸をはじめとするバイオマス系の素材を利用し、食品で汚れてリサイクルできなければ焼却または堆肥化する、キレイであればリサイクルに回すという、仕組み作りが必要になっています。
ポリ乳酸の堆肥化は、現状「ものすごい悪臭」をともなうため、都市部での堆肥化はあまり現実的な選択肢とは言えないでしょう。そのため都市部では焼却という手段になると思います。
ポリ乳酸は、いまのところほとんどがトウモロコシから作られています。つまりポリ乳酸の生産量が増えることは、人間や家畜の食料と競合することになります。
ポリ乳酸の拡大には、人間の食料と競争にならないバイオマス素材を原料にすることが今課題になっています。
紙タイプ
一部のストローを紙のストローに替えようとしているのと同じように、紙のボトルもプラスチックボトルの代替の選択肢として考えられています。
また商品の梱包材としてプラスチックのプチプチや発泡スチロールなどが主流ですが、その代わりとして紙の緩衝材も注目を集めています。
紙は、持続可能で再生可能な素材(つまり木)から作られるので、積極的に利用していきたい素材です。
こういうと、「木を切るなんてバカげている」という意見をよく聞きます。もちろん、木を切りっぱなしでは、いずれ木はなくなるでしょう。
そうではなく、植林して持続的に回収できるFSC認証のある木を使うのです。木は、育てて切って持続的に利用するべき素材です。
(ただし紙の生産には水も多く使うので、水が豊富な国に限る)
紙は、このように再生可能な木から作られるので、紙製品は大手企業の注目を集めています。
たとえば、ボトルでいえば、コカコーラ、カールスバーグ、そしてウォッカのメーカーであるアブソリュートが、ペーパーボトル社との提携を模索しています。
紙はもちろん、紙だけであれば容易にリサイクルできます。
しかし、紙パックをリサイクルしている国は実は多くありません。
なぜなら、紙パックの内側がプラスチックでコーティングされているからです。
紙製のボトルや容器は、紙以外にもプラスチックのフィルムやアルミ箔などの素材を何層か重ねて(ラミネートして)バリアを作る必要があります。紙だけだと中身の液体がもれちゃうし、光の透過によって中見が劣化してしまうため。
内側にコーティングしたプラスチックのフィルムを剥がしてまでリサイクルしている国は少ないんです。日本はそんな数少ない国の1つです。
リサイクル工場では、紙パックを粉砕して、お湯の中でほぐし、プラスチックフィルムと紙繊維を分離させます。
フィルムに使われるプラスチックはポリエチレン(PE)かポリプロピレン(PP)で、比重が水よりも小さいため、水に浮きます。
一方、紙繊維は重たいため、水に沈みます。
こうしてプラスチックのフィルムと紙繊維を分離し、沈殿した紙繊維だけを集めて、トイレットペーパーなどの再生紙に利用しています(日本紙パック環境情報誌 NP-PAKism 2008)。
当たり前のことですが、紙パックは洗ってからリサイクルに出す必要があります。食品や牛乳などで汚れていれば、リサイクルの過程が汚染されてしまうからです。
日本では紙パックをリサイクル用に洗って乾かしておき、ゴミの回収の日に出すことは当たり前ですが、実は、紙パックや紙のボトルは世界的にはほとんどリサイクルされることなく、埋め立てか焼却処理されています。
今後は、紙パックの内側のプラスチックフィルムを、石油系ではなく、バイオマス系に変換していくと同時に、世界中で積極的なリサイクルが今後求められるでしょう。
食物繊維タイプ
欧米では、食物繊維から作ったテイクアウト容器を採用するレストランやファーストフード店がでてきました。
食物繊維なので、堆肥にできると言うものです。
サトウキビの搾りかすから作られるバガスという繊維が主に使われています。
いままで捨てていたサトウキビの絞りカスを有効利用する点で良さそうで、環境意識のある企業が積極的に取り入れてきました。
しかし、内側に脂っこい食品や液体をいれるには、やはり内側をプラスチックでコーティングする必要があります。
米国では、内側のコーティングに、PFAS、つまりフッ素系の樹脂が使用されていることもありました。PFASは発がん性のある物質として知られています。
この繊維タイプの容器も、食用油で汚れた内側のライナーと外側(繊維部分)をうまく分離することができれば、専用に回収してリサイクルにまわしていくことができます。
専用に回収してリサイクルする仕組みができない限り、ゴミとして廃棄され、焼却処分または埋め立てされることになります。
焼却のために、内側もバイオマスプラスチックへの転換が社会で進められています。
微生物が作り出す生分解性プラスチック
次に良さそうな生分解性の素材はなんでしょうか。
微生物生産ポリエステル(ポリヒドロキシアルカノエート、PHA)は、長年にわたりポリ乳酸とともに期待されている生分解性のプラスチックです。
最近、日本の企業であるカネカが精力をそそいでいるPHBHは、このPHAの一種ですね。
このプラスチックは、デンプンなどの多糖類から、細菌の力を借りて産生されます。
埋め立て処理場でも分解されやすい特徴があります。
ミネラルウォーター会社のCOVEは、PHA製の容器に入った自社製品を出そうとしています。
このPHAは、海洋で分解されるプラスチック、つまり海洋生分解性プラスチックとして注目を集めています。
比較的浅い海の中なら、条件がよければ、数ヶ月〜数年以内に分解します。ちなみに石油系の通常のプラスチックは分解に数百年以上かかると予想されています。
PHA製の容器なら、万が一、海に漏れてしまうことがあっても分解してくれる可能性が高いため、その普及にも期待がかかっています。
一部の漁具など、どうしても海に廃棄されてしまう場合がある素材にも、海洋生分解性のプラスチックが期待されています。
しかし、問題はコストが高すぎること。まだ経済的にペイできるほどの大量生産には至っていません。
もう1つ大きな問題は、すっぴんの素の状態のPHAなら海洋でも分解するけど、添加剤を加えた途端に分解が悪くなるということ。
でもプラスチックというのは、紫外線に強くするだとか、着色するだとか、いろいろな添加剤をいれなければ、商品として世に出すのが難しいとう現状があります。このへんが研究者のジレンマのひとつです。
さて、先に紹介したポリ乳酸と、ここで紹介しているPHAは、多糖から単糖を取り出し、そこから作り出すプラスチックでした。一方で、多糖から直接化学修飾によって作られるプラスチックもいま注目を集めています(mugendai 2020.7.20)。
そもそもはごみをださないこと!
いくつか「生分解性」とされる材質の話をしました。
それぞれのデメリットを解決していけば、環境に優しい包装や容器の新たな市場が待っていると言えます。
しかし、廃棄やリサイクルの計画を立てずに、一見環境に優しい製品を開発して使用しても、ごみは減りません。
モノを設計するときは、モノの終わり(ライフサイクル)についても考える必要があります。
いま石油にたよらない、バイオマスプラスチック、そしてバイオマスタイプの生分解性プラスチックが期待されています。
でも、バイオマスプラスチックは石油プラスチックのように大量には作れません。
紙だって、その他のバイオマス素材だって、その生産には限界があります。
「使い捨て」への依存度を一気に下げて、ムダなごみを出さないことがまずは大事です。
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