公園や水族館でたまに見かける上図のようなポスターには、ごみとなったプラスチック製の袋、ボトル、その他の製品の寿命(=海中で何百年消えないとか)が明記されています。
これらはごみを海に捨てないようにするための良い注意喚起ですが、プラスチック製品の寿命の情報はどこから来ており、どの程度信頼できるのでしょうか?
プラスチックの寿命を明確に知ることは難しい⁉︎
ウッズホール海洋研究所(Woods Hole Oceanography Institution)で行われた研究でわかったことは、プラスチックの寿命(=環境中で分解するのにかかる明確な時間)を判断することはとても難しいということです(Ward & Reddy 2020)。
ビニール袋など日常的に使うプラスチックの寿命について述べている約60近くのポスターなどの図やレポートを調査したところ、プラスチックの寿命の推定値にはほとんど一貫性がないことがわかりました。
たとえば、一般に報告されているプラスチックの寿命は、1年、あるいは数百年、あるいは永遠に分解されない、とものすごく幅があるのです。
発泡スチロールの寿命をみてみると、米国海洋大気庁は50年といい、一方、国連環境計画(UNEP)は「数千年」と報告しています(Ward & Reddy 2020)。
レジ袋でみてみると、同じマサチューセッツ州でも、20年という場合もあれば、500年という報告もあるのです。
一方で、ある種のプラスチックの寿命の推定値は、いくつものレポートの間で異常なほど似通っていました。
特に興味深いのが、プラスチック製の釣り糸がどれだけ長く海で分解されずに残るかという記述。実に37個の解説図が、釣り糸の推定寿命を全く同じ600年と言っているのです。
他にもあります。ペットボトルでみると、調べた図のうち、実に75%が450年と言っていたのです。
でも、その450年とか600年などの数値について根拠をたどって調べていくと、つまり元の引用を探していくと、引用は示されていないとか、引用がわかっても、そこにさらに問い合わせると、数値は科学的な研究をもとにしていないものだったりするのです(Ward & Reddy 2020)。
つまり現実的に、このような公共の場で示されるプラスチックの寿命の数値というのは、引用元を探せないとか、科学的エビデンスを基にしてはいないのです。
これはかなり危険なことです。なぜなら政策の決定においても、こういった情報は極めて重要だからです。
また多くのプラスチック製品が環境中では数百年や数千年間分解されないという記述がある一方で、ウッズホール海洋研究所の研究チームは、汎用性の高いプラスチックの1つであるポリスチレンが、太陽光にさらされると数十年で分解する可能性があることを発見しています。
とはいえ、海の深いところは太陽光が届かないため、そういった場所での分解はかなり限定的でしょう。
目に見えるだけじゃない!プラスチックの誤解とは?
普段私たちがイメージするのは、プラスチックが環境中で小さな破片になって海中を「永遠に」漂っているというもの。
でも実際には、プラスチックは微細化して小さな破片(マイクロプラスチック)になることに加えて、部分的に分解して別の物質になったり、あるいは完全に分解して二酸化炭素になったりする可能性もあるといいます(Ward & Reddy 2020)。
こういった分解産物はすでにもうプラスチックではなくなっているので、科学者たちが「行方不明のプラスチック」を海に探しに行っても見つけることは出来ないでしょう。
行方不明プラスチックとは、海に入り込んだプラスチックの99%が行方不明になっているという、プラスチック汚染の長年の謎の1つです。
プラスチックは小さな破片へと微細化することはよく知られていますが、でもそのメカニズムや分解産物についてはまだまだわからないことだらけです。プラスチック分解・劣化過程の様々な形態を理解することは、この謎を解く鍵の1つになるでしょう。
とはいえ、プラスチックは極めて安定した物質です。太陽光による紫外線によって即座に光分解がはじまるとはいえ、プラスチックの固まりがそれだけで完全に分解して分子レベルになるには、それはそれは気の遠くなる時間スケールの世界です。ましては海に入ってしまえばなおさらです。
まとめ
プラスチックが環境中でどのくらい長い間残り続けるか、その疑問に答えることは簡単ではありません。
プラスチックの寿命について述べているようなポスターの図やレポートを詳しく分析していくと、多くの数値が科学的エビデンスに基づいているのはほぼ皆無であることがわかりましたが、今後は、堅実な科学にもとづいた情報公開がきわめて重要です。
私たちが数値の一つひとつの信憑性について文献をたどって調べることは難しいですが、新しい情報に対して「情報はどこからきているのか?」「この情報は本当に信頼できる数値なのか?」と一度立ち止まって考えることはとても大切ですね。
プラスチックを海にポイ捨てして、数十年で分解するということは、まずありえないです。深海から何十年もののプラスチックごみが次々に見つかっていますから(テレ朝NEWS)。
そして、プラスチックがバラバラになり微細化して「目には見えなくなる」ことは大いにあります。でもプラスチックであることに変わりはありません。