IBM(米)は、汚れたプラスチックから新しいプラスチック材料を作り出すリサイクル新技術”VolCat”を開発しました。
従来のリサイクルの問題点
通常、プラスチックをリサイクルするためには、種類の選別・洗浄・異物の除去・粉砕・溶解というプロセスが必要です。
そこには人手を含めて大きなコストと時間がかかります。
そして大半のプラスチックはリサイクルすることで品質が落ちていきます。元の製品として活用するには質が悪すぎるのです。
つまり、ペットボトルをリサイクルしてもまたペットボトルに生まれ変わることは難しく、多くは合成繊維として利用されていきます。
VolCatでできること
今回IBMが開発したリサイクルプロセスVolCatは、こうした従来の問題を解決するもの。
InstaPotと呼ばれる圧力器に汚れたペットボトルを入れると、ほんの数分でPET(ポリエチレンテレフタレート)の原料となる白い粉末が生成されます。
綿とポリエステルの混合素材のTシャツも、VolCatプロセスによって純粋な綿とポリエステルの原料に分解され、異素材でも純粋なプラスチックを取り出すことができます。
つまり、洗浄して汚れや異素材を除去することなく、短時間でしかも品質を落とすことなくプラスチックをリサイクルできるのです。
こういったケミカルリサイクルの技術はすでに業界で活用されていますが、日本で導入しているのは2社ほど。
しかも現在の方法では最大24時間かかり、さらに高温での処理が必要なため、プラスチック素材が黄色く変色するという欠点があります。
VolCatはより低い温度で、かつ通常2時間という短い時間でプロセスを完了できます。
VolCatのコア技術
プラスチックは、モノマー(1つの分子)をたくさんつなぎ合わせてポリマーにしたもの。つなぎ合わせることを「重合」といいます。
例えば、ポリエチレンはモノマーのエチレンを重合したものです。
ということは、元のモノマーに戻すこと(モノマー化)ができれば、新しい原料を使わずに繰り返しプラスチックを作り出せます。
この考えは、現在活用されている高度なリサイクル技術でも取り入れられています。
VolCatの優れた点は、汚れプラスチックや異素材との混合プラスチックでも、モノマー化をより短時間で行えること。
IBM Researchによると、「ポリマーは非常に長いひとつながりのビーズの鎖のようなもの。各ビーズは単体のモノマー。VolCatはこの鎖を可視化してモノマーを選定し、ハサミのように素早く切り離すことができる」と、その仕組みを説明しています。
プラスチック製造工場への導入
VolCatで大規模なリサイクルを低コストで実現できるか確認するため、現在パートナー企業と試行運転を計画中。
IBMは、このシステムがプラスチックの製造工場に導入されることを想定しています。
なぜなら、汚れたプラスチックをそのまま製造工場に運べば、VolCatで新たなプラスチックの原料にして生産に利用できるからです。
さらに、このシステムで使われる触媒も完全にリサイクル可能。ランニングコストや消費エネルギーも抑えることができるといいます。
リサイクル技術革新で石油消費量に歯止めをかける
プラスチック業界では、生産するプラスチックのほとんどが真新しい化石燃料から作られ、世界の石油消費量の約6%を占めています。
これは航空業界で消費される量とほぼ同じで、世界的に見ても温室効果ガスの主要な排出源になります。
国際エネルギー機関の2018年の報告によると、石油化学製品からの排出量は今世紀半ばまでに30%も増加すると予測されています。
「今後5年で、プラスチックリサイクル業界での技術革新が飛躍的に進むと予想されている。現状とは対照的に世界中でプラスチック廃棄物が利用され、原料として再利用していけるだろう」とIBMは考えています。
参考:FAST COMPANY Feb 2019, GreenBiz Feb 2019
写真:Vivan Sachs / IBM